2004-06-02(Wed) [長年日記] 編集
_ 月光ゲーム/有栖川有栖
閉じた空間での連続殺人事件。登場人物の中に必ず犯人はいる。手掛りはすべて読者の前に提示されている。そして、読者への挑戦状。もうこれでもかってぐらいのコテコテの本格物なのだ。でも、それだけではない。物語自体もとても素敵な(と言うとちょっと語弊がありますが)お話だと思のだ。
とにもかくにも謎の解明がとても美しい。有栖川作品は、特に”英都大学”物はこのロジックの美しさが信条だと思う。張り巡らされた伏線が一点に収束していく様は、まさに快感なのだ。著者のフェアな精神には頭の下がるばかりだ。
目の前にこれでもかってぐらい手掛かりを残してくれているのに、ちっとも気づかない、気づかせない。マッチが血で汚れていないって手掛かりから展開する推理は何度読んでも圧巻。泣く子も黙る推理の美しさ。推理小説とは、本来こうあるべきだとここで断言してしまおう。最初に読んだ時から、もう一生ついていきますと思ったほどだもの。
もっとも今あらためて読んでみると、ちょいと強引かなって部分もあるようなないような。
しかし、そんなことは問題ではないぞ。もう、純粋に謎解き物語を読みたい人には絶対のオススメなのだ。正真正銘の本格推理がここにある。とは思うものの、結構この手のお話って読み手を選ぶのかもなぁ、とも思うんだけどね。
月光ゲーム—Yの悲劇’88 (創元推理文庫)
東京創元社
¥ 735
2004-06-03(Thu) [長年日記] 編集
_ チルドレン/伊坂幸太郎
お待ちかねの伊坂幸太郎の新作。今回も素直に脱帽。またもや当たりって、いったいあんたはどうなってんだ?と、うれしい悲鳴。あっという間に読み終えてしまったのが、もったいなくて。あー、早く次のが読みたい。
短編集とはいえ、さすが伊坂幸太郎。著者曰く「短編集のふりをした長編小説です」の言葉通り。それぞれがもちろん単独でも、もう参りましたとひれ伏すしかない出来。特に「バンク」はミステリとしてみても瞠目すべき出来。そして、それぞれがリンクしてひとつの物語にもなっているという凄さ。その繋がり方加減が絶妙。何気なく語られるエピードが、他の物語の中で思いもかけぬ形で顔を出すのだ。陣内が親父を殴ったって話、普通はそれだけの話だよなぁ。それがあんな形で…。もう笑うと同時に恐れ入りましただ。
伊坂作品の魅力。物語の奥の深さ。
「武藤さんの知らないところで、ドラマはいろいろと繰り広げられていたんだよ」
p121
まさに我々の知らないところでも物語は展開されていて、それを絶妙なタイミングで垣間見せてくれる快感。緻密に構成された物語。さりげなくばらまかれた伏線。ほんの少し角度を違えただけで現れる物語のもうひとつの顔。
それにしても、脇役でありながら読み終えてみれば主役であることを気づかされる陣内。人のことなんかおかまいなし、破天荒、唯我独尊の彼は正直あまりお付き合いしたいと思うような人物ではない。それでいて、とても心引かれてしまうのだ。時にハッとさせられる、人としての心の正しさ、清々しさ。汚れちまった我が心に沁み入る。彼の行動は何事も純粋なのだ。純粋が故に、憧れもするけど鬱陶しくも感じるのかもしれない。でも、彼のようにいたいとは思うよね。
目の不自由な永瀬が、それ故に”善意”の婦人から5千円を手渡されるシーン。陣内はそれに憤慨する。しかし、その理由がふるっている。
「なんで、お前だけなんだよ!」「どうして、お前だけ特別扱いなんだよ」
p149
陣内にとっては障害があるなんて関係ないことなのだ。彼は実に正しい“差別”ということを認識している。この場面には鳥肌が立ちましたよ。爽快じゃないか。なんだか元気が出てくるよなぁ。
読み終えて心に満たされる暖かな気持ち。自然と口元がほころぶ心地よさ。そう、「奇跡」はあるって、いや創り出せるって信じられるのだ。
チルドレン
講談社
¥ 1,575
2004-06-04(Fri) [長年日記] 編集
_ 金田一耕助 the Complete
日本で一番有名な名探偵と言えばやはり金田一耕助、でしょう。時代を超え今なお愛される魅力を探る一冊。表紙が、懐かしの角川文庫の“見立て”になっているのがうれしい。
全77作品のレビューは参考になるし、代表作10点の「犯人・動機」の袋とじ付き大盤振る舞い。私も、長編に関してはほぼ読んでいるのだけど、中短編はほとんど手つかず。ウーム、改めて読みたくなったぞ。しかし、今は入手が難しいものも結構あるんだよなぁ。よし、これを機会にコンプリートへの道へ進むか!
TVドラマの作品リストを見たら、毎年一回はドラマになっている。それも20年前から。つい先日も新しい金田一として稲垣吾郎が主演で『犬神家の一族』がTV放映されたばかり。『犬神家』もTVだけでも4度目の映像化。少なくともTV業界にとっては確実に愛されてるね。
しかし、原作の方はどうなんでしょう。意外とTVの中だけしか知らないってこともあるのかな。稲垣吾郎ということできっと初めて横溝正史に触れたって人も多いと思う。これをきっかけに原作の方にも興味を持ちましょうよ、皆さん。そりゃもう、面白いこと請け合いですぜ。どっぷり浸れば、危ない薬のように抜け出せなくなるほど強力。声を大にお薦めしたいのだ。
金田一耕助The Complete—日本一たよりない名探偵とその怪美な世界 (ダ・ヴィンチ特別編集 (6))
メディアファクトリー
¥ 1,575
2004-06-06(Sun) [長年日記] 編集
_ ZERO/麻生幾
もう歯ごたえ十分お腹いっぱい。登場人物は多いは、組織名が長くて覚えきれないは(例えば、警視庁公安部公安総務課第六担当とか。こんなのがゾロゾロ出てくる)、話は込み入っているはで読むのも苦労しました。とくに前半は意味あり気なシーンが断片的に綴られていて、何が何やら全体像がつかめない。しかし! 後半になって、ストーリーが見えてくると、がぜん気合いの入った面白さ。
まあ、ともかく内容は濃いです。 これを素に、2,3冊ぐらいの長編は書けるだろうというくらい。特に、今まで名前しか知らなかった公安警察というものの実態は面白くかつ怖かったですね。知らぬ間に目をつけられてた、なんてこともあるのかも知れない。
それはともかく、その"濃さ"が話を複雑にしているような気がしなくも。メインのプロット自体はわかりやすい話なんです。で、例えるなら、衣のすごく厚いてんぷら。なかなか中身にたどり着かなくて、何のてんぷらだかわからないという。 ただ、衣もとても美味しいんです。でもやはり、衣はそれなりの方がいいなぁ。クライマックスの主人公の救出作戦だけでも、十分1冊の本に出きるぐらいの面白さ。だから私の好みとしては、前半の部分はもう少し押さえ気味でも良かったかな、と。
ZERO〈上〉
幻冬舎
¥ 1,890
ZERO〈下〉
幻冬舎
¥ 1,995
2004-06-08(Tue) [長年日記] 編集
_ マスグレイヴ館の島/柄刀一
謎のシチュエーションがおおいにそそられるのだ。密室の牢獄の中での墜落死と、食べ物に囲まれた中での餓死、ですぜ。こんな不可解の事件は見逃せませんて。
ミステリの根がホームズにある私には「マスグレイブ」と聞くだけでニヤリ。由緒正しいミステリといった趣で、読んでいるのが楽しくなる一冊なのだ。
それから本編のちょっとした仕掛けがしてあって最後に明かされるのだけれど、それがピリリときいているね。実は、一番の驚愕はこちらだったりするんですけど。それでも飽き足らず、最後の最後にやってくれるし。大笑いしましたよ、そりゃ。見事に落としてくれました。まあ、これは人によってはやり過ぎと思うかも知れないけど。
なにはともあれ、おもしろ正統ミステリではあるぞ。
マスグレイヴ館の島
原書房
¥ 1,890
2004-06-09(Wed) [長年日記] 編集
_ あふれた愛/天童荒太
家庭内の問題や現実に起こりうる出来事によって、心の傷に悩み、戸惑う人々。彼らの交錯する心情と通して、人が生きていくことの真実や意味、救いや幸せとは何かを掘り下げる4つの物語。
読んでいると胸を締めつけられるようです。『永遠の仔』もそうでしたけど、せつない、重い、つらい。そんな想いにとらわれます。読み終えて、正直ぐったりしちゃいましたけどね。
ただ、反発も感じるんですよね。登場人物の考え、行動に イライラしたりもする。「なぜ、君はそんなふうに生きるの、そんなことをするの?」って。もっとも、そういう自分も人から見ればどうなんだろうと不安はありますが。普通であるってのは一体どういうことなんでしょう。
それはともかく、何かこう引き込まれるんですよね。一気に読み終えました。「永遠の仔」にしても読んでいて楽しい話ではないけど、どうも、読まずに入られない魅力があります。ただし、四篇の中の「うつろな恋人」だけはどうもすっきりしない。私にとしては主人公のやってることは許せないし、結末は自業自得ですよね。あとの三篇は、読んでる途中ははフラストレーションがつのるけど、 ラストは救われます。とくに、『とりあえず、愛』は思わず目頭に熱いものが。この話、我とわが身を反省させるお話でもあります。
あふれた愛
集英社
¥ 1,470
_ feel blue
最近売れている本。といってもウチの店での話ですが。
これからの季節にもぴったりの一冊。ページをめくるたびに現れる空と海の青・蒼・碧。もう気分は南国、これでビールがあればもう最高。まぁそれはともかく、青色は見ているだけで気分爽快です。まさにリラクゼーション。ああ、癒されるなぁ。
実際に青色には精神を落ち着かせ、安定させる効果があるんだそうです。だから、寝具に青色を使うと効果的なんだとか。また、食欲を減退させる効果もあるので、食器類を青にすればダイエットにも効果的、なのかな。
出版社が経済界と言うちょっと意外な組み合わせなんですけどね。買っていかれるのは女性が多いので、小粋なプレゼントなんかでもよろしいのではないかと。
個人的なトリビアをひとつ。売れている本の表紙は青系が多い、ような気がする。どうでしょうねぇ。
feel blue—こころが元気になる贈り物
経済界
¥ 1,155
2004-06-10(Thu) [長年日記] 編集
_ 双月城の惨劇/加賀美雅之
過去の昏い伝説に彩られた古城、密室の中の首無し死体、不可解な謎、美貌の双子姉妹、そして名探偵。おお、これぞまさしく求めていたものだ!
作者は「自分が読みたいと思うタイプのミステリがない」から自分で書こうと。まさに清く正しい格探偵小説と言った趣。これぞ王道。まさしくカーの直系。作者自身もカー・ファンだというし。 中身もトリックが三つもあって大盤振る舞い。しかも、最初の密室トリックはなんとまぁ、恐ろしいトリックだこと。精神力の相当強い人しか使えませんぜ、きっと。私なんかは絶対無理だなぁ。
伏線もさりげなく張ってあってなかなかよろしい。が、伏線もちょいと大盤振る舞い気味で、二つ目の密室トリックはわかっちゃいました。 三つ目のも解りはしないまでも、この辺に落ち着くんだろうなぁ、と思うところへ。あれれ、なんか盛り上がらないうちに解決篇。
そう、読み終えた感想はとてもよく出来ている。けど、何かが足りない。言ってしまえば、どこかで読んだような物語、なのだ。 解説の二階堂藜人氏がいうほどのことはないと思うのだがなぁ。決して新しいことをするのがいいとは思わない。自分が思うのとは違ったものが「本格ミステリ」のラベルを張られてるのを思えばこうした作品が出てくるのは喜ばしいこと。ただ、どうしても二番せんじの感じが否めないのは単なる好みの違いなのか。 この作品、元はカーの偽作として書かれていたってところに問題はあるのかも。
双月城の惨劇 (カッパ・ノベルス—カッパ・ワン)
光文社
¥ 1,000
2004-06-11(Fri) [長年日記] 編集
_ レイニー・レイニー・ブルー/柄刀一
車椅子の青年、熊谷斗志八を探偵役とした連作集。既に発表済みの5編に加えて、書き下ろし2編の7作品。総じて手堅くまとめられた一編ではあるけれど、もうひとつ物足りなさも感じてしまう。
いかんせん刺激が弱すぎるなぁ。激辛になれてしまった舌には少々の辛さではもはや満足しないのだ。はぁ、困ったもんだ。一種の中毒症状だよな。目を見張るトリックだとか、驚愕の真相だとかもっと強い刺激を求めてしまうって。かといって、本作がだめだというわけではないよ。少し強引さが目立つ所もある気がするけど。
気になるところでは。
飛び降り自殺の死体が消える「人が降る確率」。何故死体は消えてしまったのか。なるほどの真相。きっと犯人も死体が消えてビックリだろうなぁ。
「百匹めの猿」はこの中にあっては外伝といったような雰囲気。ところで裏読みのし過ぎかもしれないけど、推理作家と編集者のコンビって何とはなしにある二人を想像してしまうのだけど、関係ないよね。
「レイニー・レイニー・ブルー」は表題作だけあって、印象に残る一編。が、これはミステリとは言えないな。事件が解決してからの斗志八の態度は、なんだかいかにも人間臭くてホッとするものがある。 障害者の性について、少しドキリとさせられた。障害を持っていないものが、ましてや男が想像できる気持ちではないのだけれど。
レイニー・レイニー・ブルー (カッパ・ノベルス)
光文社
¥ 890
_ ミステリーズ!vol.5
本日『ミステリーズ!vol.5』が入荷してきました。今号から隔月刊化。そんなわけで、次号もあっという間にやってくるわけです。未だに、バックナンバーも積読状態だというのに困ったものです。
で、ぱらぱら見ていて興味深い事実を発見。東京創元社が創立50周年ということで、歴史を振り返る特集があるのです。そこで判ったのですが、東京創元社と創元社は元は同じだったということなのです。ああ、長年の疑問が今ここで氷解。大したことのない疑問だったりしますけど。
その他にも元をたどれば同じ、って出版社があります。例えば、光文社は講談社の子会社としてスタートしてますし、集英社も何を隠そう小学館の子会社だったのですねぇ。
そうそう、集英社のサイトって個人的には出版社のサイトの中でも問題ありだと思うわけなのですよ。何がそう思わせるかといえば、音が鳴る。それもエンドレスに。それなのに止める術がない。ついでに、リンク先も別窓が開いてそこでもまた音が鳴ったりするのです。今のぞいてみたらその点は直ってました。いずれにせよ、デフォルトで音は出さないか、止める手段は付けていただきたいな、と。
2004-06-15(Tue) [長年日記] 編集
_ 本屋の言い訳
このところ客注品に関するトラブル(までいかないまでも)が多い。問題点は入荷まで時間が懸かると言う事だ。「まだ入荷していないのか」という問い合わせがあるとドキドキ。
一番困るのは納品の正確な予定が判らないと言う事なのだ。入荷するまでこっちもいつ入ってくるのか判らない、という無責任状態。うちでは注文を受ける際にだいたい十日から二週間ぐらいの期間を念のためみてもらっている。「そんなにかかるのか」とよく言われるけど、こっちだってそう思っている。判ってはいるのだけれども、どうしようもない部分もあるのだ。そんな事はこちらの都合だけれどね。
なんで時間がかかるのかを説明、というか言い訳。基本的に出版社注文する場合、書店に直で送られてくるわけではない。出版社ー取次ぎ会社(まぁ問屋みたいなもの)ー書店という経緯で入ってくる。で、出版社からの出荷なのだが注文してすぐにというわけではないのだ。だいたい週に一回といった具合。だから注文のタイミングによっては最悪一週間出荷待ちといった事にもなってしまう。取次ぎに入ったからといってこれまたすぐに書店に入ってくるわけでもない。だいたい平均してここから2・3日といったところか。
しかし、この取次ぎに入ってからがどうもアヤシイのだな。後から注文したものが先に入荷する、なんてこともある。まぁ、半端じゃない数を毎日捌かなきゃならないんだろうから、ある程度仕方なしとは思ってはいるけれど。日曜祭日は無条件にプラスされるから、十日ぐらいはあっという間にかかってしまうのだ(全然関係のない話なのだが、日曜祭日も本屋は営業しているのに、版元・取次ぎが休んでるってのはどうよ)。本は多品種少量薄利多売といったところで流通においてネックになっている部分がかなりあると思うのだ。文庫本一冊だけを処理するコストを考えたら赤字だものなぁ。
最近はそれでもなかなか入荷しないなんてことは少なくなったし、オンライン注文が出来るので確実に早くなってきてはいる。とは言えまだまだ時間が懸かるというのも正直なところだし、とんでもなく時間が懸かる場合もある。問題があればお叱りを受けるのは書店なわけで。もちろん責任がある事は重々承知しているけれど、しかしうちだけの問題でもないわけで。この辺は頭の痛いところなのだ。
2004-06-18(Fri) [長年日記] 編集
_ 死者は黄泉が得る/西澤保彦
死者が蘇る装置がある館での話と、その隣の街での連続殺人事件の話が交互に展開していく構成。 交叉しない二つのストーリーがどう最後に着地するのかってのがキモね。謎が謎をよんで、早く先を読みたい気にさせる手腕はさすが。
でも、もうひとつかなぁ。試みがあまり成功してないような。死者が蘇る装置なんていかにも西澤チックな設定だけども、いまいとつ物語の中で活かしきれてないかな。 殺人事件の話にはこの部分が無くても成立しちゃうんじゃないだろか。死者が蘇るという必然性が無い。他の作品だと、そのSFチックな設定が物語の中でうまく中心的な役割となっているのだけれど。
それともうひとつ重大(だと思われる)問題点が。
これが一番の謎だったりする。
死者は黄泉が得る (講談社ノベルス)
講談社
¥ 795
2004-06-19(Sat) [長年日記] 編集
_ 名探偵 木更津悠也/麻耶雄嵩
デビュー作『翼ある闇』以来の麻耶雄嵩。そんなわけで10年振りに読むわけだ。月日の流れるのは早いね。そもそも『翼ある闇』は私にはどうも付いてゆけないところがあったわけでして。もうほとんど内容は覚えていないけれど、読み終えて「なんじゃこりゃ!」との思いだけは未だにはっきり覚えていたりするのだ。インパクトだけは充分だったんだけど。負の作用だったけれどね。それ以来麻耶雄嵩には近づかないようにしていたのだな。
しかし、それ以後も麻耶雄嵩の評判は高さはあちこちで目にするんだよね。でも、初体験が初体験だったもんでねぇ。三つ子の魂百までも。いや、関係ないですけど。
が、ミステリ読みとしちゃ好き嫌いがあっちゃイカンイカン、とうわけで今回勇気を出して本作を手に取りましたよ。薄いしね。そうしたら、意外なことにそれほどの毒気もなく普通のミステリ。普通というのは語弊があるけどね。おそらく麻耶雄嵩としてはってこと。本作はどれをとってもハイブロウな4編。ああ、めくるめく謎解きの快感。
そうは言ってもある趣向が凝らされているんだけどね。それは、名探偵の名探偵たる所以。要は望むものがいなければ、名探偵は存在できないってことなんでしょうかね。裏を返せば、名探偵の助手の、助手たる所以でもあるわけかな。そして、最大の助手は我々読み手なのでは、なんてことを勘ぐったりしてね。
この中でひとつ選ぶとすれば『禁区』はピカイチ。犯人と被害者の心理の綾を巧みに解きほぐし解決に至るそのロジックには唸るばかり。確かにあの場面で自分が被害者の立場にいたら不自然なものを感じるだろうなぁ。何気ない場面から殺意の痕跡を掬い取る名探偵の慧眼。でも、何を目撃したのかってのは視線を追えば気づきそうなものだけど、じゃない?
ところで、『交換殺人』の最後で香月は何を期待してなんだろう。うーむ。
本作は単独でも充分すぎるほど楽しめるけれど、やはり麻耶ワールドを知っている方がより楽しめるであろうことは確かかな。これを機会に読まず嫌いは解消しようかな。
名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)
光文社
¥ 860
2004-06-21(Mon) [長年日記] 編集
_ 私が殺した少女/原りょう
巧妙な誘拐事件の計画に巻き込まれた探偵・沢崎。彼は身代金の受け渡しという役割を与えられてしまったのだが、途中アクシデントに遭い失敗してしまう。交渉不成立。発見される少女の死体。果たして少女は私、沢崎が殺してしまったのか? 第102回直木賞受賞作。
名探偵じゃなくて私立探偵。まさに物語の雰囲気を表すにふさわしい言葉。そう、これはハードボイルドなのだ。それまで、恋いこがれるのは名探偵で、私立探偵なんて関係ないよと思っていたのも事実。だけど、それは食わず嫌いだってことが判ったよ。男だったらハードボイルドを読め。いや、もちろん女性の皆さんもね。
冒頭から、犯人によってのっぴきならない状況に追い込まれる沢崎同様、こちらもすっかり本を閉じることを許さない状況に。もはや物語の虜なのだ。著者の巧みな筆運びは読んでいるのが快感。
物語は沢崎の目を通して描かれる。時にシニカルに、そしてストイックに。寡黙に闘うその孤高な姿は美しさをも感じる。もうただただカッコいいの一言。男だったら憧れるひとつの姿だよね。でも、ただ強いだけではない。犯人の策略で被害者の死体の第一発見者にさせられてしまうんだけど、やっぱり自責の念に耐えかねたのか酒に逃げる姿なんてのは何処かホッとさせられるな。完全無欠じゃないのが逆にカッコいいよね。それでも、そんな時でも闘う姿勢を崩さない沢崎にもうクラクラ。
彼の容姿については一言も触れられていないのだけれど、それが却ってイメージを掻き立てられる。渋く、クールに、孤独に。それは自分の中の理想の男の姿なのかもね。映画を見終わった後のように、気分だけはすっかり私立探偵。タバコはやらないんだけど、喫みたくなるんだよなぁ、これが。それも両切りタバコをね。やっぱり自分にないものに憧れるんだよね。
本書のタイトルは沢崎の苦悩でもあるんだけど、ラストに別の意味をもって登場してくる。そうなのだ。本書はミステリとしてもちゃんと満足させてくれるのだ。一通り事件が解決した後に待ち受ける、もうひとつの結末。どんでん返しというほど大げさじゃないかもしれないけれど、食後のデザートには大満足の逸品、かな。そう、誰が少女を殺したのか?
あ、どうでもいいことなんだけど、原りょうの「りょう」って変換できないんだよなぁ。パソコン泣かせの名前だよね。
私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)
早川書房
¥ 714
2004-06-24(Thu) [長年日記] 編集
_ 亡国のイージス/福井晴敏
めちゃめちゃ熱くさせる本なのだ。もう目頭を何度熱くさせられたことか。己の信ずるもののため、戦う男たちの悲しいお話。こういうのは無条件に弱いのであるよ。
「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非ず。」
こんな台詞を見て、ゾクゾク来たら即買いだ。
もっとも前半は、正直言って面白くなかったんだけどね。話がどっちへ向かって走っているのかどうにも判らん。おまけにちっとも登場人物たちに感情移入が出来ないしさ。「あなたの気持ちは理解は出来るんだけど、それはちょっと違うんじゃないかなぁ」ってな具合で。ただ、このモヤモヤ感はもしかしたら確信犯かな。物語が進むにつれ、それぞれの人間の立場が判ってくると、正直驚いた。君はほんとはそんな人だったのね。反転する人物関係、敵味方。
中盤以降、物語の全体像が見えてからはがぜん盛り上がる。アクション全開、気分はまさにハリウッド。登場人物達が誰をとってもカッコ良くてしびた。その中でも、やはり主人公とも言える3人のそれぞれの生き様。その見事なまでの不器用さは、逆にかっこ良くもあるのだ。そうなのだ、男は不器用でなければ、なんて思いません?
ただ、最後の最後はちょっと余分だったような気がするのは、私だけかな。ラストシーンの前で終わってたほうが余韻が残ってよかったと思うのだけれどなぁ。好みの問題かな。ちょっと出来すぎよね。
亡国のイージス
講談社
¥ 2,415
2004-06-26(Sat) [長年日記] 編集
_ インターネット上では何故本名を名乗らないのか?
ネット上で本名を名乗っている人ってやはり少数なのかな。「雷蔵」ってのも、一応言っておくと本名じゃないよ。いわゆるハンドルネーム。ネットの世界に入っていった時に当然のようにハンドルネームを名乗ったんだけど、そうするのが当たり前って気持ちだったかな。
何故名前を隠すのか? 多分その気分の最大公約数を求めると「ネット上は危険だから」ってことになるんじゃないかと思うんだ。パーソナルなデータは公表すべきじゃない、ってね。確かに危険という一面があるのも事実。少し前にもサイト上の女子学生の写真を見て、恋心かどうか知らないけどわざわざ勝手に会いにアメリカからやって来て、立てこもり事件を起こした奴もいたしね。やはり不用意にデータを露出させることはまずいよなぁ。世の中いろいろと想像を超えるパワーをお持ちの方がいらっしゃるものね。
それから、覆面だと言いたいことが言えるってのもあるよね。これも大きな理由かな。遠慮なく発言できるって利点。もちろん、それがそっくりそのままマイナス点にもなりうるんだけど。名無しさんとしての無責任発言。
でも、最近思うのは名前ぐらい公表してもいいんじゃないかってこと。いや、積極的に名前は出すべきなんじゃないかな。自分自身、このサイトでいい加減なことを書いてはいないって自負はある。だから、きっちり責任を負ってみようかと思うんだ。やはり発言には責任を持たないとね。もちろん本名だけを名乗ったところで、それほど変わりがあるわけでもないけど。第一断らなければ本名かどうかなんて判らないんだし。まぁ、そこらへんは本人の気分の問題。なによりも、ちゃんと自分はここにいるよってことを言いたくなってきたんだよね。ハンドルネームだと自分であって自分じゃないような気がするのも確かだからさ。
危険性の問題にしても、名前だけならそんなに問題ないと思うし。試しに自分の名前をググってみると、これが結構いるんだわ。子供の頃は自分の名前って他にはいないだろうと思っていたのに。名字はとてもありふれているんだけど。だから、名前から特定するっては結構難しいんじゃないのかな、と楽観しているんだ。そうは言っても、まだ躊躇している部分もるんだけどね。
そんなわけで、ある日こっそり名前が変わってる、なんてこともあるかもしれないのでよろしくね。
