酔眼漂流記

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2004-10-06(Wed) [長年日記] 編集

_ 映画「女王蜂」(ネタバレあり)

今月は日本映画専門チャンネルで横溝正史原作”金田一耕助シリーズ”の映画特集をやっている。

本日は「女王蜂」(監督市川崑、主演石坂浩二)。えーと、微妙にネタバレ話になりそうなのでお気をつけ下さいね。

ずいぶん久しぶりに観るよ。今まではあまり評価していなかった一編。というより同じシリーズの「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」が良過ぎて損しているというべきかな。

舞台が伊豆と京都で慌ただしい。そのせいかうまく物語が整理されていない感じ。筋を追っかけていくのが精一杯と言いましょうか。物語の密度が薄く感じられるのだ。原作を知らずに観ると訳が分からないんじゃないかと心配したりね。短い尺の中で表現するにはむかない原作なのかな。もっとも原作自体も横溝作品の中では個人的にはどうかな、ってこともあるんだけれど。

でも、改めて観るとミステリとしては前3作に比べると落ちると思うのの愛憎劇としてはなかなか魅せてくれるよ。叶わぬ愛情の悲しい結末。愛するが故の悲劇。ラストの遺書のシーンでは不覚にも目頭が熱くなった。映像も美しいし。季節が秋ということで赤がイメージカラーに。紅葉の赤、毛氈の赤、そして血の赤。

ただ動機の点で、原作にあった最初の殺人の実の動機が省かれてしまっているので、殺人自体があやふやな行為に見て取れるのが難と言えば難かな。

しかし、これはいいのか悪いのかほとんどの出演者が過去のシリーズと同じってのはね。どうしても前のイメージが付きまとうんだけどなぁ。三木のり平の部分や加藤武はまぁ、確信犯的で笑わせてくれるけどね。それにしても前作までの犯人が全員集合ってのは豪華といえば豪華、かな。

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2004-10-08(Fri) [長年日記] 編集

_ さむけ/ロス・マクドナルド

新婚旅行初日に失踪した花嫁ドリー。夫アレックスを見かねたリュウ・アーチャーは調査に乗り出す。やがてドリーは居所は分ったのだが夫の元へ帰るつもりはないという。再度ドリーを訪れたリュウが見たものは血まみれで錯乱状態の彼女だった。そして彼女の言葉通り死体が発見されるのだった。

全編枯れた味わいとでも言いましょうか。モノトーンの風景。読んでいても何故か夜の景色しか思い浮かばないのだ。淡々とした描写がそう思わせるのかな。物語の展開も派手じゃないし。探偵が関係者に話を聞いていくうちに事件は解決してしまうのだから。

プロットが結構複雑で気を緩めると訳が判らなくなりそうにもなる。どうも外国人名は覚えづらくて、この人誰だったけ?ってこともしばしば。それに輪を掛けて、人間関係も複雑だしね。

それでも、これがすこぶる面白い。傑作だと声を大にして言いたいのだ。ハードボイルドと称されるけれど、十分に本格ミステリだ。大小さまざまな謎が物語が進むにつれ現れ、それが寄り集まりひとつの大きな謎へ。そして、その謎がラストの見事な一撃で落とされる快感。その瞬間に解るタイトルの「さむけ」の意味。人間てのはやはり恐ろしいものなのです。

しかし、その枯れたタッチが災いして人によってはさっぱり、かもしれない。本作を楽しむには水墨画を味わうかの如くの気持ちが必要かもしれない。詫び寂びの心に通じるといったら大袈裟かな。

付け加えていうならば、リュウ・アーチャーの魅力に負うところも大きいな。物語はリュウの視点で描かれているため、彼自身の描写はまったくない。特に目立ったことをしているわけでもないのだけれども、圧倒的な存在感。ひたすらカッコいいのだ。男だったら憧れるよなぁ。

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Tags: Mystery

2004-10-09(Sat) [長年日記] 編集

_ 映画「獄門島」

これもずいぶん久しぶりに観るなぁ。改めてこうして観ると、「ムムッ?」と思ってしまったり。ご存知の通りこの映画では、原作と結末が微妙に違うのだ。映画はそれはそれで原作の雰囲気を壊さないように纏まっていると思うけれど、少しやり過ぎの感じがしないでも無いなぁ。いかにも悲劇性を強調するようで、オリジナルに比べるとあまり好きではないよ。

そもそも横溝正史がやりたかったのは、実は本当の真犯人は○○でした、ってことだと思うんだけど、その点が薄れてしまっているよね。それに映画版の犯人の動機が解るようで解らない。要するに和尚の為ということなのかなぁ。

とはいえ、オープニングから雰囲気は観ていて鳥肌もの。解決シーンまでは完璧。なにより自分の中での登場人物のイメージがドンピシャリ。三人娘(ひとりは浅野ゆう子!)の愛嬌のある禍々しさは見事。鵜飼章三役のピーターも決まっているし(もっとももう少し見せ場があっても良かったような)。黄門様も出ていらっしゃったのね。他のキャストの皆さん存在感のある人ばかりで、見ていて飽きさせない。脇役であっても端役ではないのだ。冗舌なシーンがひとつもないよ。

映画としては充分面白いと思うけれども、前2作の「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」から比べてみるとやや落ちると思うよ。原作の面白さを活かしきれていないかな。前が興行的に大成功だったので、いろんな意味で色気が出てしまったせいなのかなぁ、と邪推してみたりね。結末を変えるのはね。それがやはり物足りなさを感じるポイントなのだ。そして、この後2作は“映像化”ではなく”映画”になっていってしまったなぁ。

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2004-10-12(Tue) [長年日記] 編集

_ 映画「悪魔の手毬唄」(ネタバレあり)

もう何も文句の言いようが無い。ただただひれ伏すばかりなり。誰がなんと言おうとも大傑作なのだ。単に邦画としてみても比べる作品は無いであろう。このシリーズでは『犬神家の一族』と甲乙付け難いけが、やはり『悪魔の手毬唄』が最高傑作である。剛の『犬神』柔の『手毬唄』といったところか。

晩秋の(原作は夏だけれど)押さえた色使いの映像は、どこか哀愁を帯びていて、凄惨な殺人事件が起きるんだけど美しい。その殺人にしてもおぞましくもどこか様式美といえるものがある。これ以降の作品だと首が飛んだり手首が飛んだりと結構スプラッターだけど、そんなことの無い淡々とした描写が余計怖い。

この映画のポイントはなんと言っても磯川役の若山富三郎に尽きる。しっとりと落ち着いた雰囲気が画面から滲みだしてくるよう。唯一原作と同じキャラクターの警察関係者として、なんだかホッとするんだよなぁ。加藤武演じるいろいろ別人な(笑)刑事もいいんだけどさ。

金田一と磯川警部が再会するシーンにまずジーンと来る。二人の実に懐かしげな笑顔を見るとなんだか泣けてきちゃう。そして、ラストシーンもいい!原作と同じシーンなんだけど、演出としてはこっちが勝ると思うなぁ。このラストシーンにはこれしか無いでしょ。

そうしてもうひとり、岸恵子。この映画の評でよくみるのが「動機が弱い」という点。確かに冷静になって考えれば、何も人を殺してまでもすることなのか、とは思うよ。ただ、私としては岸恵子を見てるだけで納得してしまったよ。彼女の存在が動機たり得るのだ。彼女の存在感全開。その分何も知らなくても彼女が犯人だと否が応でも気づいちゃいそうだけどね。同じ母親の犯罪でも高峰秀子はなんだかおっかないけど、岸恵子は許しちゃいそうな気がするなぁ。

そして何よりも、原作の味を壊さずにしっかりと映像化している点は見事だと思うよね。原作も大好きな作品なんだけれど、文句の付けようも無い程見事な脚本。よくぞ2時間半という中に収めたね。でも、先に原作を読んだ上で見た方がいいのかもしれない。とにかく、横溝ワールドが好きな方なら是に見て抱きたい。

まったくの余談だけれども。これ以外のシリーズにも出ていらっしゃる辻萬長さん。今でも当時と少しも変わってないですねぇ。他の方は皆さんお歳をとられているのに。

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2004-10-13(Wed) [長年日記] 編集

_ 女王蜂/横溝正史

先日映画を見て、読み返す。改めて読むと判ることもいろいろとある。原作を読んでみると映画の脚本は、いろいろと改変はしてあるが、うまく雰囲気はつかんでいて健闘している。

それはともかく。舞台が閉ざされた世界(島であるとか古い因習にとらわれた村とか)じゃないと、どうも横溝作品は地味、というか多少色褪せてるように思える。

この作品もどうも風通りがいいのが気になる。淀んだ空気の方が効果的で刺激的で好みだったりする。それが横溝作品の面白さのひとつになってると思うし。どうにもこれは、あっさりしちゃっている。

密室殺人を扱ってはいるけど、腰砕け的な真相ではあるな。もっとも著者もあまり密室を強調しているようでも無いから、あくまでも舞台装置のひとつと見るべきか。その他にもミステリ的な小道具はあれどもサラッと流してしまっている感じ。

ラストはあんな結末になったから解決したと言えるしなぁ。結局19年前の真相は、犯人は誰でも可能性があり得るってだけだから、あの人も何もあんな思い切ったことをしなくてもよくありません?

決定的な証拠に欠けるので、謎解きのスッキリ爽快感を味わう作品じゃあ無いかな。

だからと言ってつまらないかといえばさに非ず。横溝正史の面白さは何よりもそのストーリーテリングの巧みさにあると思うのだけれども、この作品もご多分に漏れず。結末が判っていたって読み始めたらグイグイと引き込まれた。

時代がかった文体は、読んでいてちょっとくすぐったいんだけど。

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角川書店
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_ 映画「八つ墓村」

市川崑監督のトヨエツ金田一版の方。ちらっと見ていたけど、途中でやめた。前に一度見ているってこともあるんだけど。やはり見るに耐えない。

公開当時は市川版横溝映画の復活ということで結構期待したもんだ。スチールで見る限りトヨエツ金田一もいい雰囲気だったし。しかし…。

まずなんと言っても画面に迫力が無いよ。市川版全5作にはあった重厚な雰囲気が皆無。こじんまりとしちゃってるよね。テレビドラマ並みといったら失礼かな。セットでの撮影が多いせいかしらん。

そして個人的に最大の減点は豊川悦司演じる金田一耕助にあり。あまりに軽薄な立ち振る舞いは悪いけど、映画をぶち壊しにしていると思うよ。見ていて石坂金田一の醜悪なパロディにしか見えない。本人はどう思っているのか知らないけれど、演じる上でベースとなっているのは石坂金田一のような気がする。でも、ちっとも様になっていないと言いましょうか。なんだか媚び過ぎてるよね。もっと飄々としてくれてたらなぁ。雰囲気は悪くないのに。

ちなみにいえば、野村芳太郎監督の「八つ墓村」(渥美清が金田一役のね)の方が面白いかな。こっちも個人的にはいまいちだと思っているんだけど、それでも圧倒的なおどろおどろしい迫力は認めるところ。特に山崎努の村人殺戮シーンだけでも見る価値ありと思っております。ありゃ怖いよな。今でも夢に見そうなぐらい。

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¥ 3,285


2004-10-18(Mon) [長年日記] 編集

_ 市川崑×石坂浩二

先日例の日本映画専門チャンネルの特番で市川崑と石坂浩二の横溝映画についての対談を見た。なかなか面白い内容。シリーズと言っても、「犬神家の一族」とそれ以降では微妙に雰囲気が違うように思っていたけど、やはり作り手側でもそう思っていたようで。「犬神家」は角川の映画だしね。「悪魔の手毬唄」以降のは東宝でが市川色が強いってことなのか。ちなみに監督自身「手毬唄」がお気に入りと言うことで。

「金田一耕助は“天使”である」と言う市川監督の台詞は言い得て妙だと思ったよ。彼は悲劇を中和させる為に存在していると思うのだ。原作でもそうだけれど、彼がいるだけでホッとできるところがいいよね。決して事件を解決する為だけにいるわけではないのだ。結果として解決しているだけで。業、宿命、悲劇を清算する為に。

「獄門島」のラストを変えたのは犯人は美女がいいという監督のお好みからみたいです。映画は映画としてあれ出よかったと思うけれど、いっそのこと和尚はなしにした方がすっきりしたのでは。監督もそんなこと言ってたね。

それはともかく。毎回三木のり平の女房役で出てくる人は誰なんだろうと思っていたけど、あの人はスタッフだと言うこと。長年の謎が解けました。なるほど。他にもスタッフが出演していると言うことで、まぁ、一種のお遊びなのかな。


2004-10-19(Tue) [長年日記] 編集

_ へんないきもの/早川いくを

まるでSFにでも出てくるような、でも現実に存在する“へんないきもの”たちを集めた一冊。とにかくパラパラめくるだけでも楽しい。本当にこんな生き物がいるのか!ってオンパレード。

例えば、クマムシ君。こいつは凄いぞ。摂氏150度の高温にも絶対零度にも、真空や乾燥だってなんのその、6000気圧もの高圧や放射能にさえも耐えちゃうナイスガイ。ほんとにいるんだってこんなヤツが。しかも、結構身近にいるってんだから驚き。こいつらが本気になって人類に挑戦してきたら勝てないね。おとなしい皆さんでよかったよ。

他にもグロテスクなものから笑っちゃうものまで、形態模写するタコや空飛ぶイカと、もう何も考えずに楽しめるぞ。名前は知っているものの実はへんてこな生物とかもね。アイアイって、きっと歌では知っているだろうけど、和気あいあいと歌う程かわいいお猿さんでもないとかね。

まぁ、こんな奴らの存在を知ったところで、日々の暮らしに少しも影響ないけど、それでも知ってよかったと妙に興奮する一冊なのだ。

へんないきもの へんないきもの
早川 いくを
バジリコ
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Tags: Book

2004-10-20(Wed) [長年日記] 編集

_ 六機の特殊/黒崎視音

うひゃー、ガッカリ。というのが正直な感想。ハードなものを期待してたら、何だかやたら軽いのだ。帯に《危機の最前線に立つ精鋭たちの活動をリアルに描く》ってあるけど、正直ウームっていったところ。ありきたりのテレビの刑事ドラマみたいな展開と言うのが正直な感想。それは、全体的に嘘っぽさがどうしてもついて回るからかな。

もちろんフィクションである以上ある意味"嘘”であるのは当然だとしても、"嘘っぽい"ってのはどうでしょうね、と言うのが私の言い分。ようは中途半端に思えるってことなのですね。そしてそれは物語に感情移入できなくなるってことにも。

だいたいだね、現場の警察官でもない女性が体験入門みたいな形で狙撃銃の射撃をしてみたら成績良好で、しかも主人公の隊長に好意を持っちゃったから特殊部隊への配置転換を希望。そうしたら一発で受かっちゃったってのは、どう思います?

ひとそれぞれの好みの問題だと思うけど、私的には頂けませんよ。

日本のS.W.A.T.の活躍はいかに!ってことを期待する向きにはお勧めできないよなぁ。そもそも6話中2話しか本業での活躍がない。ガチガチのハードアクションを期待すると肩すかしだと思うよ。

六機の特殊 六機の特殊
黒崎 視音
徳間書店
¥ 1,995

Tags: Mystery

2004-10-25(Mon) 映画「本陣殺人事件」(ネタバレあり) [長年日記] 編集

_ 本陣殺人事件

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ジェネオン エンタテインメント
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1976年の「犬神家の一族」の一年前に撮られた映画。よって、横溝ブームとはまったく無関係なわけだ。しかも知る人ぞ知るATG。そんなわけだかどうか、「犬神」以降のような派手な娯楽性と言った点とは無縁の作品。淡々とした描写が実に渋い。そして異色作。

まず時代設定が原作の昭和初期から現代へと変更。これは何でも予算の関係らしい。もっとも現代と言っても、特に明らかにはされていないけれど、昭和40年代ぐらいかな。今からみればもう十分に遠い昔なので変な違和感は感じることが無いと思う。逆に私にしてみればノスタルジアを感じさせる時代で、いい雰囲気だったりする。この当時ぐらいだったら、犯行の動機となる設定もあり得ると思えるしね。今の時代だと、犯人の動機はかなり特殊な部類にはいっちゃうかもね。と言うか、確実にアブナイ人だ。でも、今でもあり得るか、逆に。

そして金田一役が誰あろう中尾彬。知らない人にはちょっと想像ができないかもなぁ。しかもサングラスにジーパン姿。どこが金田一?って感じかもしれないけど、これがそんなに悪くもないんだ。確か横溝正史も中尾版金田一は気に入ってたらしくて、三枚目の線が抜けてはいるけれど、わりかし原作に近い感じだと思うなぁ。設定が原作に忠実だったらとちょっとだけ残念。

原作の持つ耽美的な怪しさ、陰鬱さも胸が苦しくなるくらい充分出ていて、金田一映画としてはお薦めできると思うよ。原作も、映画にするにはちょうどいい量だし。

ただし純粋にミステリとしてみるとどうかな。金田一耕助はほとんど推理していないし、何よりも肝心の密室トリックの解明は実にあっさりしたもの。どちらかと言えば、何故犯行は起ってしまったのか?って点に重きを置いているかな。人の持つ因業、情念、恐ろしさ、儚さ。

深夜、闇を引き裂く琴の音色と、それに続いて発動されるトリックの美しい様はザワザワと鳥肌もの。これはやはり映像の勝利。

これはまったくの余談だけれども、犯人役は田村高廣よりも古屋版のTVシリーズでの佐藤慶の方が自分の中では印象が強い。


2004-10-30(Sat) [長年日記] 編集

_ 魔術師(イリュージョニスト)/ジェフリー・ディーヴァー

最初の1ページから興味津々な展開。殺人現場で人質とともにホールに立てこもった犯人。警官が踏み込むが、人質もろとも煙のように消えてしまう。そしてまた繰り返される殺人。そのどれもがマジック(イリュージョン)の見立て殺人。被害者に接点は見えず、犯人の動機も目的も皆目見当がつかない。二転三転、いやそれ以上かな、するプロット。これに挑むのは文字通り車椅子探偵のリンカーン・ライム、そしてアメリア・サックス。

著者のディーヴァーは、映画にもなった『ボーン・コレクター』の時から気になっていた存在。今回のミステリ心をくすぐる筋立てに、これは読まなきゃとシリーズ5作目にして初読。帯のこの一言がすべてを物語っているのだ。

最初のページを開いた瞬間から狂喜乱舞すること間違いなし—法月綸太郎

犯人である魔術師はデヴィッド・カッパーフィールドとハンニバル・レクターを合わせたようなある意味スーパーマンのようなヤツ。イリュージョンのテクニックで人を変幻自在に騙し、瞬く間に別人に早変わり、鍵など瞬時に解錠してしまう。その犯行はまさにイリュージョンのごとし。現実を目の前にしても、何が何やら訳が判らなくなってしまうのだ。捜査陣も翻弄されっ放し。この個性的な敵役のおかげで最後まで読書の集中力が落ちることがない。主人公の魅力も大事だけれど、もしかしたら、それ以上に大事なのは圧倒的な存在感を持つ敵役かもしれないね。

イリュージョンの核となるのはミスディレクテョン(誤導)。見てもらいたい場所に注意を引きつけて、見てもらいたくない場所から遠ざけるテクニック。作中でこのテクニックについての解説シーンがあるんだけど、なかなか興味深い。手品との違いは物理的なトリックだけではなく、このミスディレクションが重要になってくる点。それは心理的に騙すと言うことかな。それはまさにミステリにも言えること。イリュージョンとミステリはそういったところで共通点があるのだ。

そして、真のイリュージョニストは作者であるディーヴァーなんだよな。だって、実は騙されるのは警察じゃなくて、我々読者なんだから。この一冊そのものがイリュージョンなのだ。著者の仕掛けたミスディレクションに惑わされず真相を見抜くことが出来るか。読み終えて判るんだけど、実は最初の方で核心に触れている部分があるんだよね。

タネも仕掛けも…、たくさんあります、ご注意を。

以下余談。作中に有名なマジシャンと言うことでプリンセス・テンコーが登場。おお、やはり結構な人なんだと再認識。

魔術師 (イリュージョニスト) 魔術師 (イリュージョニスト)
ジェフリー・ディーヴァー/池田 真紀子
文藝春秋
¥ 2,200


2004-10-31(Sun) [長年日記] 編集

_ 密室の鎮魂歌(レクイエム)/岸田るり子

第14回鮎川哲也賞受賞作。今回はもう一作『鬼に捧げる夜想曲』との同時受賞。そんなことからタイトルも“レクイエム”と“ノクターン”と洒落ているわけかな。

結論から言えば、これは大満足の受賞作。なんと言っても核となる謎の設定がいいのです。

ある女流作家の個展会場で、一枚の絵を見た女性が悲鳴を上げる。5年前に密室状態の部屋から失踪した夫の消息を、この画家が知っているに違いないと主張するのです。しかし、画家とその夫妻にはまったく接点がない。その一枚の絵に隠された秘密とは……。

この魅力的な謎のおかげで片時も飽きさせず、最後まで読むテンションが持続するのです。そして物語の全てが、その謎に収束していく見事さ。徹夜してしまいました。

美味しい謎をどう着地させるのかと期待すれば、決してウルトラCではない。けれど見事な着地姿勢に10点満点。そのグロテスクで、悲しい真相にはゾッとしました。視覚的な怖さではなく感性に訴えてくる怖さというんでしょうか。いや、うまいなぁ。これは女性ならではの視点なんでしょうかね。

ただし、登場人物がほとんど女性ということが、なんとなく居心地の悪さみたいなものも感じたりもしました。女の園に紛れ込んだ感じ?

タイトルに謳う程「密室」が物語のポイントかと言えば、その点に関してはあまり高い評価はできません。都合4つの大盤振る舞いだけど、どんどん陳腐になっていくのはご愛嬌かな。最初の密室だけで、その後のは必要だったかどうか。

ラストがちょっと安っぽいドラマエンディングに感じたりするのも微妙なところ。それまでの上品さがちょっぴり下品に。男が思う女性の怖さが露骨に出ているせいでしょうか。「女はおっかねーなぁ」なんて場違いな感想になっちゃったり。日記の告白のところで、しんみり終わってくれた方が吉、だったかな。この辺はまったくの好みなんですけど。

そんなことはしかしそれは問題にならない。今回の受賞作に偽りはありませんぜ、ってことで次回作も期待できそうです。

密室の鎮魂歌(レクイエム) (創元推理文庫) 密室の鎮魂歌(レクイエム) (創元推理文庫)
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