酔眼漂流記

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2005-05-02(Mon) 新選組 [長年日記] 編集

_ 燃えよ剣/司馬遼太郎

新選組という言葉の持つ響きには、どこか心の内側をくすぐられる。しかし、この物語はあくまで土方歳三の物語であって、新選組のそれではない。新選組の活躍といったことには池田屋の件以外ほとんど触れられていないといってもいい。そこに一抹の物足りなさを感じたりもするのだが。

そしてこの物語は、著者が「おそらく土方歳三の生涯にとってもっともその本領を発揮したのは、この時期であったろう」と述べているように、実は京都を去ったその後の方がめっぽう面白い。喧嘩師としての本領を発揮し時勢という化け物に果敢に挑んでいく。その姿は一方で切なく哀しい。それは滅び往くものの美しさ。果たして時代は何のために土方歳三という男を必要としたのだろう?

司馬作品の主人公は皆英雄と呼ぶにふさわしい、カッコいい男の生き様が描かれている。時代を颯爽と駆け抜けた男たち。著者の筆で描かれる土方もまさに英雄としてイキイキと描かれている。いつも思うのだ。その生き方は正邪を超えて憧れる。読み終えた後は、気分だけはもう土方歳三なのである。男として生まれたからには一軍の将として歴史を切り開いてみたい、という想い。司馬作品は眠っている闘争本能を揺さぶるのだ。

脇役として、沖田総司が華を添えている。顰めっ面の土方と陽気な沖田の掛け合いはどこか漫才でも見ているようで微笑ましい。その一方で、近藤勇に関しては著者はそれほど好意的には見ていないようなのだ。近藤はうすぼんやりとした印象しか残らない。正直何故土方は近藤に肩入れするのかが伝わってこないのだ。

余談として。現在NHKで放映中の『新選組!』であるが、土方役の山本耕史、沖田役の藤原竜也両名ともまさにイメージにぴったりといった感で、それだけでもこのドラマは見る価値があると思っているのだ。ぜひ『燃えよ剣』を映像化するなら、彼等で。

燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫) 燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫)
司馬 遼太郎
新潮社
¥ 780

燃えよ剣〈下〉 (新潮文庫) 燃えよ剣〈下〉 (新潮文庫)
司馬 遼太郎
新潮社
¥ 780

Tags: Book

2005-05-04(Wed) [長年日記] 編集

_ 弥勒の掌/我孫子武丸

『殺戮にいたる病』以来の13年ぶりの書き下ろしです。しかし、私は我孫子作品は未読なのです。変な先入観も期待もなく読み始めました。

辻恭一は、3年前に教え子と不祥事を起こしてしまい、それ以来妻のひとみとの夫婦仲は冷えきってしまいます。そんなある日。恭一が帰宅するとひとみの姿が消えていました。失踪に関して警察から非ぬ疑いをかけられた恭一は、自分でひとみの居所を突き止めようとします。手掛かりは、《救いの御手》と名乗る新興宗教団体。

一方ベテラン刑事である蛯原は、愛する妻を殺害されます。仇を取ると誓った蛯原は単独で捜査を開始します。そしてその前にも《救いの御手》の影がちらつきます。

同じ接点を持つ辻と蛯原は、やがて出逢うことになり、協力して《救いの御手》を探ることになるのですが……。

読み始めて、誰しも思うのは貫井徳郎の『慟哭』でしょうね。新興宗教といい、辻と蛯原のパートがカットバックで進行するスタイルといい。もちろん体裁が似ているだけで、中身は全く別物ですけど。それでも、犯人がどうのこうのと言うよりも、全体で何か仕掛け、叙述トリックなんだろうなぁ、と勘ぐってしまうわけです。

身構えて読んでいたにもかかわらず、ラストはポンと手を打ってしまいました。なるほど、そう来ましたか。驚愕のラスト、とまではいかないまでも見事にやられました。巻末の著者のインタビューに「あんまりシンプルなんで、そのまんま書いたら、読者はこれすぐわかるだろう」とあるように、それだけ取り上げれば結構使い古された手で新鮮味はないです。しかし、ミスリードがうまいのでちっとも気がつかなかった。

そして、「意外な」犯人、および探偵(?)役。ちょっとアクロバティックな着地のような気もしますけどね。というか、偶然過ぎやしません?(笑)。

まぁ、重箱の隅だと思いながらも突っ込みたくなるところがあるのも確か。愛する妻の割には通夜とか葬式の手配はそっちのけでいいの?とか、蛯原の奥さんってある意味犯罪じゃありません?とかね。

そんなことは関係なく、最後まで一気に読めます。長編といってもそれほどのボリュームじゃないですしね。何よりその小気味よいオチには納得で満足。ただ、最後がちょっと救いのない終わり方なので、お気に召さないかなぁ、と。

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ) 弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)
我孫子 武丸
文藝春秋
¥ 1,850

Tags: Mystery

2005-05-09(Mon) [長年日記] 編集

_ ギブソン/藤岡真

こいつは面白いです。評判が良さそうなので期待していたのですが、裏切られる事無く。読み進むにつれ深まる謎。いったいこの先どうなることかと本を置くことが出来ません。あっという間の読了でした。

待ち合わせ場所に日下部の上司である高城が現れず失踪してしまうところから物語は始ります。警察の捜査はよくある家出人と言うことで期待は出来ず、日下部は敬愛する高城のため自ら行方を追います。

あちらこちら出向いていって証人に話を聞く、といったスタイルはハードボイルドを連想させます。

聞き込みで次々と現れる不可思議な事実。待ち合わせ場所で聞こえた銃声らしき音、町内に出没する謎の消防車、血の付いた衣服を残して消えた老人、高城の生き別れた娘、跋扈するストーカー、日下部の前に立ちふさがる正体不明の脅迫者。

そして、時折挿入される不明の第3者の視点のパート。

とにかく膨大な伏線。もう全編伏線、といってもいいぐらいです。それらがどう繋がっていくのか。これまた全編謎だらけ。こうなれば最後がどう着地するのか、否が応でも期待が膨らみます。

バラバラだった事実が収まるところに収まり現れる物語の本当の顔。それまで牧歌的な雰囲気だと思っていたのが、結構シビアな結末。これだけの伏線をきっちりまとめあげた著者の力量は素晴らしい。もっとも、その複雑さが災いして、意味が判りかねる部分もあるんですけれどね。

今までで読んだタイプでいえば、テイストは伊坂幸太郎といったところでしょうか。それをもっとドライにした感じ。『オーデュボンの祈り』や『ラッシュライフ』が面白いと感じる人には大いにお勧めですね。

タイトルの「ギブソン」。真っ先に思ったのはギターのことだったのですが、カクテルのことなんですね。マティーニのバリエーションなんだとか。では、何故「ギブソン」がタイトルなのか。高城が愛飲していたと言うことがあります。が、最後に明かされるギブソン自体の由来に込められた洒落た意味。この物語の象徴でもあるわけですね。

それはともかく。今の気分は、「ギブソンを一杯!」。

ギブソン (ミステリ・フロンティア) ギブソン (ミステリ・フロンティア)
藤岡 真
東京創元社
¥ 1,785


2005-05-18(Wed) [長年日記] 編集

_ 痙攣的/鳥飼否宇

こ、これは……。

読み進むにつれ確実に何かやらかしてくれそうな期待と相反して募る不安感。少しずつ昏迷し歪んでいく世界。そして待ち受けるクライマックス。最後には笑うしかない。

帯には「伝説的バンドのステージ上で起きた密室殺人!前衛舞踏家が遺したダイイング・メッセージ!客の前から消失したイリュージョニストへの罠!」と、とても魅力的な謳い文句が踊っている。しかし、謎解きを期待するとあっさりと裏切らる。ミステリ的な終着を、敢えて蹴っ飛ばして壊している。

予想外の結末。それを意外だと思うか、突拍子もないと見るか、トンデモだとするか。最初の3編は、まぁいいとして。4編目の「電子美学」は『人格転移の殺人』ばりの極上の謎の設定にもかかわらず、その結末には正直ずっこけた。それに続く最後の1編には、ある意味もう参りましたと言うほかない。鳥飼否宇はこんな話を書く人だったのか。

それでも個人的には微妙なところだけれど、全く受け付けないと言うところでもない。人によっては怒りだすのではないかと余計な心配もするけど。そのオチには思わずニヤニヤしてしまうといったところ。そういう意味では愉しめた一冊。が、面白いかと問われれば素直に頷けない一冊でもある。

思うにあくまで美しいのは「謎」であって、「解決」にあるのではないといったところなのか。真実なんてのは如何様なりとも創り出せるもの。「正解」と言う答えはない。名探偵の名推理なんてものは所詮は戯言なのだ、なんてことも思い至った一編。ともかく、いわゆる正当なミステリものを期待してはいけない。

痙攣的 痙攣的
鳥飼 否宇
光文社
¥ 1,890

Tags: Mystery

2005-05-23(Mon) [長年日記] 編集

_ Googleに関して見つけた話題を二つ

googleにまつわる話題を二つ。

Google更新で大規模な順位変動 :: Drk7jp

今回の Google 更新はかなり大規模な更新のようで、どうやら順位付けのアルゴリズムの変更もしくは新しいフィルタが導入された模様です。

このサイトも、割と結構検索結果で上位をキープしていたのがものの見事に下方修正。堂々の第一位なんて記事もかなりの数あったんだけどねぇ。今は探さないと見つかりません。おかげで笑っちゃうぐらいアクセス数は激減しました。

こうなると本当に洒落にならないよね、Googleの存在ってのは。まぁ、あんたのところは今まで分不相応な検索結果だったのが分相応になった、と言われれば「そうだよね」と頷くしかないんだけどさ。

笑って済ますことが出来ないって人も大勢いるだろうし。なんだかんだ言っても、ユーザではなくGoogleの顔色を伺わなきゃならないって感じなのかしらね。そう思うと癪に触るけれど。

それでもまた何がしかの変更があって、順位が入れ替わって。この先ずっとこの繰り返しでしょう。結局のところ気にするなってところかも。

たけくまメモ:【驚】Google AdSenseからの契約破棄通知

いや、さっき帰宅しましてメールをチェックしていましたら、当ブログからリンク広告を貼っているGoogle AdSenseから「広告出稿契約」の一方的破棄のメールが届いていてビックリ!

身に覚えがないのに一方的に契約破棄通知が、ってこと。

可能性としてGoogle AdSense狩りなるものを挙げておられますが、これは防ぎようがない。誰にでも出来る簡単な嫌がらせだな。Google AdSense(に限らないけど)はこういう危険性の上に成り立っているわけね。

しかし、Googleだってそんなことは判っているだろうから問答無用で切り捨てないで、もう少し何とかならんもんかねぇ。

考えたくないけど、こういう場合で切り捨てられるのは個人契約の場合だけなんじゃないかってこと。企業や法人の場合はバッサリってことはないんじゃないかと勘ぐってみたり。

Tags: Net

2005-05-25(Wed) [長年日記] 編集

_ ゲッベルスの贈り物/藤岡真

プロローグは第二次大戦末期、独逸軍Uボート艦内。「ゲッベルスの贈り物」と呼ばれる秘密兵器の資料を極秘に日本へ持ち帰る任務を帯た飛良泉海軍大佐。航海中独逸は降伏に至り、艦長から連合軍に投降することを告げられる。

そして本編は、現代の東京へ。謎の人物「わたし」が人気俳優の剣城直樹をビルから突き落とし、自殺に偽装する。その後も「わたし」は著名人を自殺に見せかけて次々に暗殺してゆく。

もう一方で。広告制作会社の「おれ」こと藤岡真は、公の場には一切現れない謎の人気アイドル「ドミノ」を捜すよう社長から命令される。「ドミノ」の居所を探すつもりが調査は思わぬ方へ転がりはじめ、何やらきな臭い雰囲気が。

この二つの物語が交互に語られていく。しばらくはゲッベルスの「ゲ」の字も出てこないし、物語同士も全く関連性が見いだせない。いったいどうオチを付けるんだろうかと、否が応でも興味が沸く。ついつい気持ちは物語の中へ。

待ち受ける終着点。どこに連れて行かれるのかと思えば、こんなところだったとは。いやぁ、これは予想できないでしょ。そして、ある仕掛けに思わず唸る。

著者自身あとがきで、<q>わたし自身、読者と言う立場だと「全く思いもしなかった意外性」を求めて</q>いて、<q>書き手になったときにも、常にこの主義を貫きたいと思っています</q>とあるように、読んでいる最中は五里霧中、少しも手のうちを明かさない。先に何があるか判らないからついつい読みふけってしまう。読み手の心をとらえて離さない著者の手腕はさすが。

ただし。その結末の荒唐無稽さには全面的に賛成、とはいかないけれどね。意外性を求めるあまり、相当強引な気もする。いやぁ、これはある意味笑っちゃって、それはそれでいいんだけれど。

なにより最後の「でもね正子、本当はゲッベルスの贈り物なんだよ」と言う一節に思わずニンマリ。果たして本当の「贈り物」はなんだったのでしょう。

ゲッベルスの贈り物 (創元推理文庫) ゲッベルスの贈り物 (創元推理文庫)
藤岡 真
東京創元社
¥ 735


2005-05-28(Sat) [長年日記] 編集

_ 扉は閉ざされたまま/石持浅海

石持浅海は、今もっとも期待している作家の一人。これまでは「アイルランドの薔薇」にしても「水の迷宮」にしても、状況的に(物理的ではなく)閉鎖されは状況の中での殺人事件を描いている。

今回は堂々の密室殺人。けれども、そこはひと捻り。普通は、ドアが破られて密室殺人が誕生となるのに、それこそ「扉は閉ざされたまま」の状況で物語は進んでいく。登場人物に取っては密室はおろか殺人事件も起こっていないと言う状況。

久しぶりに開かれた大学の同窓会で、メンバーの一人の兄が経営するペンションに7人の男女が集う。その中で、伏見亮輔は後輩の新山への殺意を胸に秘めていた。物語は倒叙形式で伏見の視点で進行。当日、部屋の浴槽で彼を殺害。事故による溺死に偽装し、部屋を内側からロックする。そして、何食わぬ顔で他のメンバーの元へ。

一向に部屋から出てこない新山を、花粉症に聞くと言う触れ込みで与えた睡眠改善薬のために眠り込んでいると思い込ませる。しかし、参加者のひとり碓氷優佳だけは些細なことから疑問を持ち始める。優佳によって、伏見の計画が少しずつ綻び始めていく緊迫感。伏見の計画は成功するのか!

倒叙物なので犯人に肩入れしたくなるんだけど、彼女の痛いところをついてくる指摘に、ついついこちらも舌打ちしたくなる。攻める優佳と躱す伏見。丁々発止のやり取りではなく著者の言葉にあるように「探偵と犯人が静かな闘いを繰り広げ」てゆく。

何故密室状態を創り出したのか。これが読んでいて引っかかる点で惹き付けられる点。伏見の筋書きとしては入浴中に睡眠改善薬のせいで眠り込み浴槽に沈んで溺死、というところだったはず。それならば、何も密室を創り出す必要なないはず。この辺りは伏見、というか著者は妙に思わせぶり。

犯人が判っている以上これこそがこの物語の最大の謎、といえるかな。その謎が優佳によって明かされる時。それは動機にも絡んでくるんだけれど、ちょっと不気味な理由。歪んだ正義感。正直言えば、そんなことで殺意が芽生えるの……、とは思うけれど。

丹念に真相を紡ぎだしていく、端整なロジックに満ちた好編。ただ、欲を言っちゃえばこじんまりとした印象も。どうもこのところ藤岡真、鳥飼否宇とひねくれたミステリを読んでたせいか、10点満点の着地姿勢は美しいけどなんだか物足りなくも。ずっこけちゃってもいいからとんでもないアクロバティックな大技を、と思うのは欲張り過ぎですかねぇ。

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル) 扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)
石持 浅海
祥伝社
¥ 880


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