酔眼漂流記

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2005-06-04(Sat) [長年日記] 編集

_ 三百年の謎匣/芦辺拓

芦辺拓は、ずいぶん昔にに冊程読んだきり。それ以来自分の中では、どうも好みじゃなかった。昨年の「紅楼夢の殺人」の評判がよろしいのでまたチャレンジしてみようかとは思って手にした一冊。

弁護士・森江春策の元に遺言書の作成の依頼で玖珂沼瑛二郎と名乗る老人が訪れる。しかし、玖珂沼にはそれ以外にも目的があり、風変わりな本を春策に差し出す。そこには三百年に渡って、異なる書き手が体験した六編の物語が記されていた。

その後、玖珂沼老人は密室状態ともいえる路地で射殺される。至近距離から撃たれたのもかかわらず雪が薄く積もる現場では、犯人の足跡はもとより被害者のものも無い。犯人は誰で、動機はなんなのか。事件を解く鍵は渡された書物にあるとみた春策は、謎を解くためにページを開く……。

ウーム、やはり微妙だった。一冊の書物を巡る不思議なお話といったところでは、それこそ冒険活劇といった趣で充分面白い。舞台も内容もバラエティにとんだ六編。誰もが知ってるある人物が意外なところで登場したり、飛行船ヒンデンブルクを巡る謎があったり。西部の町の銃撃戦からアフリカの秘宝探検まで。

どれもちょっとした謎があり、その物語の最後で明らかになる。けれど残される謎があって、それが読んでいる最中にどうもスッキリしなくて微妙な感じを持ったまま物語は進んでいく。きっとそれが最後の最後で明かされるびっくり箱なんだろうなぁ、と思いつつページをめくるわけなんだけど。

そして最終章、玖珂沼老人殺害の解決に至る。書物を巡る謎と殺人事件の結びつきが強引すぎる気がするなぁ。物語に残された謎を解くことで事件のヒントが見えてくるんだけれどね。別に関係ないじゃん、とも言えるのでは……。

きっと、その書物が事件を引き起こしたのだ、ということなんだろうな。自ら意志を持ち、人々の手を渡り歩き事件や冒険を引きを越す不思議な本が主役のお話なのだ。それでも、やはり現代の事件は付け足しみたいで、無かった方が良かった気がするよ。

三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド) 三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド)
芦辺 拓
早川書房
¥ 1,785

Tags: Mystery

2005-06-12(Sun) [長年日記] 編集

_ シシリーは消えた/アントニイ・バークリー

アントニイ・バークリーは1893〜1971年のイギリスの作家。代表作は『毒入りチョコレート事件』あたりかな。一般的に知名度はどうなんでしょう。ミステリ好きにしか知られていない作家なのかなぁ。実は、わたしも名前こそ知っていましたけれど、未だに読んだ事が無かった作家の一人であります。

本作の『シシリーは消えた』は最初別名義でマイナーな出版社から発表され、それほど多く出回ったわけではなかったようなのだ。バークリーの作品だと判明したのも死後17年後ってことだからつい最近の事。そのたために「幻の」作品とも呼べるもの。

時代は第二次大戦前ぐらいかな。レディ・スーザンの屋敷で近親者による夕食会が開かれる。食後の座興として、スーザンの甥であるフレディは「人を消すことができる呪文がある」から試してみようと、降霊会を始める。実験台として名乗りを上げたのはシシリー・ヴァーノン嬢。

そして始った会の最中に、ほんとうにシシリーは消えた。当初は悪戯だと思われたものが、シシリーの姿は屋敷中を探しても見つからない。そして、執事が不可解な死を遂げる。シシリーは何処へ、如何なる理由で消えたのか?

とてもライトなミステリ。全く不可能な状況でもないし事件性もそれほど感じられないので、「シシリーが消えたこと」はあまり緊迫した謎とはいえなかったりする。最初は彼女の悪戯だと思われたからね。

縦糸は主人公のスティーブンとポーリーンを巡るロマンスの物語で、ミステリの部分はそれを演出する仕掛けといった感じ。ふたりの仲睦まじい「冒険ごっこ」、といったものを想像してもらえれば判りやすいでしょうか。得てしてこういうのは苦手だったりするんだけれど、そこは適度にスウィートで、またビターで問題なし。

そして、スティーブンの立身出世物語といった見方もできる。実は、従僕を使う程の裕福な独身だったのがお金を使い果たしてしまい、今度は自分が従僕としてスーザン邸で働くところから物語が始るのだ。意地の悪い執事のせいでクビになりそうなのが意外な人の助けで……、といったようなベタな展開が逆に安心できて、ハッピーエンドが心地よし。

とは言えミステリとしての骨格もしっかりしている。情景描写の中に、巧みに目立たず織り込まれた伏線は、解決シーンで「なるほど」と唸らされたし(ただし、ほんとに目立たなくてそんなことがあったっけ?と思ったりもするけれど)。事件の真相も結構意外性があってこれまた心地よし。

特にとんがったところも、ギスギスしたところも無い、古き良きミステリの香り充分のおおらかな一編。最近のミステリって、時にドーンと読み疲れちゃうところがあったりするから、こういったのはたまにはいいです。

シシリーは消えた (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ) シシリーは消えた (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
アントニイ バークリー/Anthony Berkeley/森 英俊
原書房
¥ 2,520

Tags: Mystery

2005-06-15(Wed) 青の殺人/THE BLUE MOVIE MURDERS: エラリー・クイーン [長年日記] 編集

_ 青の殺人/エラリー・クイーン

あらすじ

20年前に一部で話題になった『ワイルド・ニンフ』という映画があった。これはいわゆる「ブルーフィルム」と呼ばれる類いの映画だったのだが、いかがわしいだけのポルノとは違いしっかりとした芸術性を備えていた。映画プロデューサーのスローンはその監督の才能を認め、行方を追っている最中に何者かに殺される。州知事のホランドは、知事直属の捜査官であるマイカ・マッコールに捜査を命ずる。それは、事件が折からポルノ映画の規制を求める運動家の格好の攻撃目標とされないためでもあった。現地に赴いたマッコールに、人々は何かを隠すように頑に口をつぐみ、捜査は難航するのだった。

エラリーであってエラリーに非ず!?

エラリー・クイーンというのはフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという従兄弟同士の作家の共同ペンネーム。そして、エラリー名義の作品の中には他の作家の代作がいくつかあるのだ。本作はエドワード・D・ホックがエラリー・クイーン名義で発表したもの。

タイトルの「青の殺人」というのは、内容が伺い知れなくてずいぶん抽象的。なんだろうと思ったら、これは原題の"THE BLUE MOVIE MURDERS"の、直訳なんでしょう。そして、"Blue Movie"って日本風に言えば「ブルーフィルム」ってことだ。これでピンとくる人には判るはず。そう、ポルノ映画(って言い方も今は聞かなくなったか)が物語の鍵となっているのだ。

エラリー・クイーンは「国名シリーズ」を数冊と「Zの悲劇」以外のドルリー・レーンものを読んだだけ。その印象からすると本作は、かなり雰囲気が違う。そもそもポルノ映画ってことだけでもちょっと面食らいましたよ。結構きわどい描写も出てきたりしてね。本家のエラリーでも、こういう作風のものはあるんでしょうか。エラリー・クイーンの一作だと思って読むとちょっと違和感がある。大体ハードボイルドタッチなのだ。

しかし、駄作かといえばそんなことも無い。ちゃんと意外な真相を用意しているし、そのまますんなりと終わらせず、最後にもうひと波乱もってくるサービスぶり。何気ない描写が解決の糸口になっているといった伏線の張り方も、堂に入ったもの。エラリ・クイーンの名は善くも悪くも重かったかな、ってのが正直な感想。ホック名義だったらまたそれはそれで違ったんだろうなぁ。

青の殺人 青の殺人
エラリー クイーン/Ellery Queen/門野 集
原書房
¥ 1,890

Tags: Mystery

2005-06-22(Wed) [長年日記] 編集

_ シリウスの道/藤原伊織

あらすじ

辰村祐介は広告代理店勤務。大東電機の新規事業にまつわるマーケティングの仕事が持ち込まれる。他社との競合で仕事を勝ち取るため、決して有利とはいえない状況の中行動を開始。その一方で、辰村には少年時代の誰にも言えない秘密があった。25年経った今、何者かがそれを蒸し返そうとしていた。

感想

初めて読む藤原伊織。読んでもいないのに今までクールな印象を持っていたけれど、この物語はむちゃくちゃ熱い。グッと胸にくる場面の目白押しで後半は泣きっ放し。一歩下がってみると出来過ぎ感のあるお話だけれど、ちっとも嫌みが無い。もう泣き所のツボへ直球ど真ん中のストライク。まんまと著者にのせられて、どっぷりと感情移入。久しぶりの無条件お勧め本。

悪戦苦闘しつつも頑張っている人の姿ってのはいいね。かっこわるいのが抜群にカッコいい。辰村をはじめとした登場人物がどれも型破りで魅力的。ある目的のために個性的なメンバーが集まるっていうのは、それだけでもうゾクゾクしちゃうよ。そして、いけ好けない敵役は徹底的にいやなヤツで、これがまた物語を大いに盛り上げてくれる。

どうしたって長いものには巻かれろ的な気分がある中で、愚直なまでに自分に筋を通す生き方は憧れる。上司に楯突いたりとかね。実際世の中では、そんなことをしていたら道化になることの方が多いわけで、でも物語の中では見てくれている人がちゃんといて「正義」が勝つ。爽快。

終わり方も、ある意味予定調和だけれど、私にはあれが一番いい終わり方だと思う。逆の結末だと、それこそ出来過ぎで最後の最後でシラケてしまう気がした。ほろ苦い余韻が素敵。

影の主役ともいえる戸塚君はひたすら格好良すぎ。親の七光りで入社したようなボンボンだと思っていたのが……。プレゼンの最後のあの場面で、あんな台詞を言ってみたいもんだよねぇ。自分の中のくすぶっている理想、叶えられそうも無い、を見せてくれる。

最後に余談というかどうでもいい事を。帯には「ミステリ」の言葉があるけれどこれはミステリではない。ミステリ的な要素、ってことでもないと思うしなぁ。最初は少年時代の出来事に根ざした「事件」が物語の本筋かと思えば、こちらは彩りを添える程度といったところだ。無くてもいいかもね、ってのが正直なところ。もちろん、そんなところは気にならない程本編が面白いんだけどね。

シリウスの道 シリウスの道
藤原 伊織
文藝春秋
¥ 1,800


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