2005-07-04(Mon) [長年日記] 編集
_ ぼくらの時代/栗本薫
栗本薫デビュー作にして第24回の江戸川乱歩賞受賞作。1978年のことだから、もう27年も前のことだ。その時は、彼女も弱冠25歳ということもあって、結構話題になったはず。
初期の栗本作品は欠かさずに読んでいた。この後「気持ち」「世界」と続く「ぼくらシリーズ」と伊集院大介シリーズ。当時のお気に入り作家の一人で、新刊が出たら迷わず買っていた。
栗本薫は最初は、「グイン・サーガ」もあったけれど、キッパリとミステリ作家という認識だった。今は当時の雰囲気とはお変わりになってしまったようで、ずいぶんとご無沙汰です。確か最後に読んだのは「天狼星」かな。あのお話は自分の中の伊集院大介というキャラに相容れないような物語で、面白くはあったけれど、そこから先は止まった。
30年も前の作品なので流石に講談社文庫でも落ちてしまったようで、新風舎から復刊。懐かしくて久しぶりに再読。
人気アイドル「あい光彦」の出演する番組の収録中のスタジオで、彼のファンの女子高生が刺殺されるという事件が起こる。続いて局の大道具部屋から発見される女子高生の撲殺死体。二人は親友だったことが判明。大学生のアマチュアバンド『ポーの一族』の薫・信・ヤスヒコは、局でアルバイトをしていたことから事件に関わることに。難航する捜査の最中、『ポーの一族』のもう一人のメンバーが密室で殺される事件が起きて……。
突き詰めると全体的に詰めの甘いところも見られる。アンフェアといえばアンフェア。細かく突っ込めばきりがない。けれども、バリバリの理詰めで読ませるタイプではないのでそんな欠点はそれほど気にはならない。何よりミステリの「いい匂い」が仄かに立ち上るのだ。著書はミステリが好きなんだろうなぁ、ってことがひしひしと伝わってくる。
「だれが?」でも「どうやって?」でもなく「なぜ?」が事件のキーポイントだ。何故事件は起きたのか?
すぐには理解できない、でもとてもセンチメンタルで健気な真相。少女たちはなぜ死ななければならなかったのか。物語と、そして動機に密接にかかわり合うのは「こども」と「おとな」のジェネレーション・ギャップ。いつの間にか変わってしまう価値観。
ところがいまは、ガキがガキであるってことが、自然のままにしといてもらえない。おとなが、ガキあいてに商売しなきゃならんからですよ。
最初に読んだときは「こども」に属していたけれど、今ではしっかり「おとな」側だ。あの頃は「踊らされているんじゃなくて、踊っているんだ」と思い込んでいた。今は、おとなが振り回されているように見えて、実際は逆なんだろうなとしみじみ思う。
30年も前の話だけれど、本質的なことは今も変わっちゃいない。
ぼくらの時代 (新風舎文庫)
新風舎
¥ 890
2005-07-11(Mon) [長年日記] 編集
_ 模像殺人事件/佐々木俊介
何とも言えない不思議な雰囲気。セピアの色調。遠い昔に読んだ探偵小説。どこか懐かしい匂い。
何も知らずに読み始めれば、時代は戦前あたりかと思うのでは。しかし、ノート・パソコン、携帯、メールといった小物が登場するようにまぎれも無く現代。けれど、思いを馳せるは横溝正史の世界。単に倣ってみましたではなく、キチンと独自の世界を作り上げている。
売れない推理作家の大川戸は旅先で車が故障して立ち往生するはめに。そこは、人通りの無い山の中。助けを求めてたどり着いた先は人里離れた山の中にひっそりとたたずむ木乃家。折しも木乃家では8年ぶりに音信不通だった長男・秋人が帰ってきたところだった。大怪我を負ったという顔を包帯で隠す変わり果てた姿。驚くことに、そこにもうひとり秋人を名乗る覆面の男が現れて……。果たしていずれが本物なのか。そんな中で事件は起こる。
これはなかなかの佳作。結構意表をついた結末が待ち受けていて、しっかり騙されました。全体が渋いんでちょっと地味に見えちゃうけど、なかなかの大技。抜け目なく伏線も置いてあり。冒頭からの何となく感じる違和感がラストにちゃんと活きている。改めて序章を読んでみると、なるほどね。
トリックだけでも大胆で面白い。けれど、なんと言ってもこれはミステリアスな雰囲気を味わう物語でしょう。その薫りにほろ酔い加減。救われないラストも、それが却って余韻として残り、ビターなテイスト。
総じてかなり好印象な一作。こうなると他の作品も読みたくなる。が、寡作な人なのだ。もう一冊『繭の夏』はデビュー作。10年前。ウーム、次作もすぐに読めるってわけにはいかなそうな……。
模像殺人事件 (創元クライム・クラブ)
東京創元社
¥ 1,680
2005-07-24(Sun) [長年日記] 編集
_ 死神の精度/伊坂幸太郎
しみじみと味わい深い一冊。楽しい読書の一時を過ごせる。ただ、伊坂幸太郎ということを考えると善くも悪くもなる点が微妙なところ。要するに普通に面白いだけでは満足できない体になっているってことだ。そんなわけで、期待側に思い切り傾けた気持ちで読むと、物足りなくも感じる。贅沢な悩みなんだろうけどね。
主人公は死神。情報部が選んだ人間に「死」を実行するかどうかを、調査部が一週間かけて判断する。「見送り」か「可」か。それが仕事。そんな死神と対象者の一週間の笑えてちょっと切ない物語。
死神を取り憑くとかいった従来からのイメージではなく、普通に仕事をするサラリーマン然といった感じで描いているのは新鮮。当然グロテスクといった感覚はない。特に主人公の死神「千葉」は、淡々とした中にさり気なく感じるユーモア。まだ人間界のことで知らないことも多く、本人は真剣にもかかわらず、とんちんかんな会話になってしまうのが微笑ましい。
冒頭から降る続ける雨。彼が「仕事」をするときにはいつも雨降り。死神に雨はよく似合う。けれど、決して陰鬱とした感じではなく、雨に優しく包まれているといった雰囲気。雨の情景ってのは結構色っぽいものなのだ。そして降り続ける雨があるからこそ、最後のあの場面が効果的。心もスッキリ。
そしてミュージック。死神たちは誰もがミュージックが好きだ。暇さえあればミュージックを聴いている。CDショップで試聴CDを一心不乱に聞き入っている死神の姿なんてのはシュールでいい。で、「音楽」じゃなくて「ミュージック」としているところがいいね。読んでいると何故かこっちも思わず「ミュージック」が欲しくなる。
ミステリとしても、なかなか洒落た出来。「吹雪に死神」の死神という設定を活かしたオチは笑えるし、「死神対老女」の些細な謎、一日だけ客を集めて欲しい、に対するハッとする真相は秀逸。うんうん、その気持ち判るよ。
いつもながら感じることはミステリが目的ではないんだろうってこと。そういった意味で、もっとミステリ的に広げられるだろうにという物足りなさも感じなくもないが、あくまでもそれは隠し味。でも絶妙にきまっている。
「旅路を死神」の途中で出てくる彼は、あの「彼」なんでしょうか?久しぶりに他の作品とリンク。
死神の精度
文藝春秋
¥ 1,500
2005-07-27(Wed) [長年日記] 編集
_ イニシエーション・ラブ/乾くるみ
前から気にはなっていた一冊。知人に勧められて、本まで貸して頂いたのでようやく読む。どうも乾くるみには食わず嫌いの先入観があって、今まで手に取ることはなかったのだ。ネタバレ気味なので未読の方は要注意。
読み終えた瞬間は「は???」
それこそ頭の上をはてなマークがいくつも踊ってましたよ。「君は?何が起きたの?」
サイドBの冒頭からの違和感から、トリック自体はある程度予想したところ。この手のパターンもあり得るかなってね。しかし、もしかしたらと思うものの
それも仕掛けのうちということか。日本じゃ多いからね。
そんなわけで最後の二行でトリック自体は「やっぱり」という感じだけど、その先が思いつかなかった。なんでそれがオチになるのか、著者の仕掛けが直ぐに判りませんでしたよ。しばらく頭の中で反芻することしばし。 「そうか!そういうことなのかぁ!!」 著者に完全に騙されてた。
改めて見返してみると、その罠の深さに気づく。実はあれもこれもアレだったのかと判って思わずニヤリ。二度目にその仕掛けを頭に入れて丹念に読んでみると、おおっ、全く別の物語へと変貌。
殺人事件もなければ、謎めいたところもない。少しもミステリしていない。単に男と女が出会って別れました、ってだけのお話。ひと夏の青春だな。ところが、特に大掛かりな仕掛けもでもないのに、読み終えるとミステリになってしまうというのはうまいなぁ。確実にもういちど読みたくなるよ、きっと。
でも、途中で出てくる濡れ場のシーン(って言い方が古いか)は、ちょっと露骨すぎて辟易。いや、もちろんそういう話は嫌いじゃないですぜ。でも、時と場合によるよなぁ。そんな話を望んでないところで読まされるのは、結構きつい。肉まんだと思って食べたら、アンコが出てきちゃったよって気分だ、多分。あんなに丁寧に描かなくても目的は果たせるんじゃないの、と思ってしまうのだった。
それから、時代設定と見出しの選曲は著者の趣味ってことなんでしょうか?
イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)
原書房
¥ 1,680
2005-07-28(Thu) [長年日記] 編集
_ 大漁旗ぶるぶる乱風編 にっぽん・海風魚旅4/椎名誠
表紙の写真。還暦を過ぎてるようには見えないよなぁ、椎名誠。確実に私より体に締まりがある。ウーム。
それにしても。一生のうちに訪れることが出来る場所はどれぐらいあるか。国内に限ったって、知らない場所の方が圧倒的に多い。そして全てを知ることはないんだろうなぁ。
こんな風に、あちこちを旅出来るのは素直に憧れる。まぁ、仕事でもある以上楽しいばかりじゃないんだと思うけれど。日々の暮らしに汲々として、暮らすために働いているって状態は良くない。思いっきり遊ぶために働かなきゃなぁ、と思うものの一向に暮らし向きは良くならず。
取りあえずそんなことは置いて、ページをめくり、優しく吹いてくる海風に思いを寄せて、今宵もビールを傾けるのだ。
大漁旗ぶるぶる乱風編 にっぽん・海風魚旅4
講談社
¥ 1,890
