酔眼漂流記

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2005-09-02(Fri) [長年日記] 編集

_ てのひらの闇/藤原伊織

退職まで後二週間のある日。飲料会社宣伝部長の堀江は、会長から自らが趣味で撮影しているビデオのひとつを見せられる。そこにはマンションから落下した子供を救った人物が映し出されていた。この映像をCMに使えないかと持ちかけられるが、堀江はその映像がCGの合成で出来ている事を指摘する。そして、その夜会長は自殺した。 20年前の忘れがたい出来事の恩人である会長は何故死ななければならなかったのか。ひとり動き出す堀江の前に現れた事実は……。

シリウスの道』『テロリストのパラソル』に続いて3冊目。ストーリーテラーとしての手腕は相変わらずお見事です。読み始めたら、途中でやめられなくなります。会話の妙と、所々で滲んでくる登場人物たちの格好良さも相変わらずでしびれます。

しかし、どこか主人公の堀江に感情移入できない部分があるのです。今まで読んだ『シリウス』の辰村、『テロパラ』の島村と違って、ちょっと「普通の人」でないところがどうも気にかかるといったところでしょうか。

彼のバックボーンを思うと格好良くて当たり前、って気になってしまうのです。そう、等身大さを感じさせないと言いますか。辰村、島村にはあった危うさというか、何がしかの弱さが感じられないと言いますか。結構スーパーマンですよね、堀江は。

途中チンピラに襲われる場面では、堀江の姿に驚嘆するのが半分、ちょっと興ざめな部分も半分といったところでした。かろうじて風邪を引いているのが可愛げのあるところでしょうか。

プロットにもひとつ問題が。私が読み間違っているのかもしれないけれど。そもそもCMの件は、圧力があったにせよ、石崎会長の案なのですよね。それならば、もし事が進んでいたら彼がなんとしても守りたかった秘密を、当事者に告げるに等しい行為なわけです。それを思えばあんなシチューションを創り出さなくとも、他の方法はいくらでもあったはずと思うのですが。この辺りがどうにもスッキリしないのです。

それに、いくらなんでもCGか実写かどうかの見分けは見る人が見れば、いや誰でもかな、直ぐに判っちゃうんじゃないかってことも気になるところ。

あとひとつ言えば、大原というキャラクター。少しだけ鬱陶しく感じてしまいました。ナミちゃんとかぶってないかなぁ。ちょっとバランスが悪い気がします。こういう勝ち気な女性は、今のところ藤原作品に共通したところみたいですけど。

なんてことを言っていますけど、クラクラするぐらい面白い事は間違いなし。ここにも憧れる生き方があるのです。もうすっかり藤原ワールドに引きづり込まれてしまいました。

てのひらの闇/藤原伊織/文藝春秋 icon


2005-09-19(Mon) [長年日記] 編集

_ モーダルな事象/奥泉光

うだつのあがらない短大助教授の桑潟幸一(桑幸)は、ひょんなことから無名の童話作家溝口俊平の遺稿と出逢う。桑幸がこれを世間に発表すると反響を呼び、出版すれば大ベストセラーに。しかし、担当の編集者の首なし死体が発見されると桑幸の身にも不可解な出来事が。 フリーのライターの北川アキは元夫の諸橋倫敦とともに事件に首を突っ込むのだが……。

奥泉作品で読んだことのあるのは『グランド・ミステリー』と『ノヴァーリスの引用』です。それに比べるば真っ当なミステリに仕上がっています。まぁ、「一応」という言葉が続きますけど。

本作でも、虚構と現実をフラフラと彷徨う展開は、とても不安な気分にさせられます。自分の立っている場所が何処だか分からなくなる感覚でしょうか。桑幸の体験する出来事は彼の夢なのか、彼自身が実際に過去へと飛んで経験しているのか判別できないのです。何が本当のことなのか混沌とする世界。

怖い夢を見たんだけど内容が少しも思い出せないもどかしさ。結末は知っているはずなのに、何も判らないという焦燥感。なんだかイヤーな感じなのです。はっきりと細部まで「見える」描写なのに肝心なところは語らない。想像力が駆り立てられて怖い怖い。

それでも、桑幸の憎めないキャラクターと全体を包むユーモアによって、前に読んだもの程息苦しさはありません。最初はかなりくだけた感じで戸惑いました。こういうのも持ち味なんですね。

そしてホラーのようなSFのような桑幸のパートと表裏一体なのが、北川アキと諸橋倫敦の自称元夫婦刑事(ほんとの刑事じゃないけれど)のパート。ミステリとしての骨格はこちらが担っています。面白いのはこのふたりは直接事件に介入しないという点。

ミステリ好きの倫敦の台詞。

要するに今度の事件を一個のテクストと見なし、これを読み込んでいこうとするわけだから、小説を読むのと本質は変わらないんじゃないかな。

「現実」の事件をミステリ小説として「読む」という訳なのです。お互いのパートはほとんど接点がなく、元夫婦刑事はごく普通のトラベルミステリ風なので、一層桑幸のパートが「現実」の出来事に思えなくなってきます。虚構と現実をさまよう浮遊感を味わえるのですね。二つの全く違う話を読んでいるようで、しっかりミックスされている不思議な味わい。

殺人事件の決着は付くものの、事件の真相が語られるのは、桑幸のパートの方なのです。これがくせ者。そこで語られることは本当のことなのでしょうか? どれが、何処までが現実なのでしょう。ああ、結局最後はまた惑わされてしまうのです。やはり普通にミステリとして読むとキケンかも。

余談その1。溝口俊平の遺稿が、その内容にかかわらず、何故か売れてしまってベストセラーになるってのは、ある意味昨今の出版界への著者の皮肉なんでしょうか。

余談その2。何故だか井上ひさしの『吉里吉里人』を連想。勝手に桑幸が古橋のイメージに重なってしまって。

モーダルな事象/奥泉光/文藝春秋 icon


2005-09-20(Tue) [長年日記] 編集

_ 埋み火/日明恩

老人世帯で失火により住人が焼死する火災が続く。どのケースもあまりにも「不幸な偶然」が重なっていることから、実は放火自殺なのではという疑問を大山雄大はもつ。気になるうちに、鍵を握ると思われる人物と出会う。全ては放火自殺なのか、それとも……。

消防士の活躍するお話は昔から好きなのでした。勝手にカッコいい憧れの対象に思っていたのです。しかし、本作の主人公大山雄大には戸惑いました。彼は消防士にはなりたくてなったわけではないのです。だから、熱き消防士魂みたいなものは皆無。消防士を地方公務員という安定した職業としか捉えておらず、さっさと危険な現場から離れて、事務職に移りたいと願っています。

この時点で怯みましたが、だからと言っていい加減なヤツと言うわけでもありません。やるべきことはちゃんとやる。もっともそれは火災現場では手抜きなんてしようものなら、それは自分の命の問題だからということではありますが。それでも、彼はいいヤツです。なんだかんだと言って結局事件に頭を突っ込んでいくのですから。物語の主人公としての資格充分にあり。ただ、台詞はいいとして地の文までかなりくだけた(くだけ過ぎ)ノーテンキな口語体ってのは、読んでいて鬱陶しかったですが。

「人は何のために生きているのか?」

明確に答えられる人なんて、そう多くはないのでは。大多数の人にとってその問いは、ありがたいことに、自然とスルーできることなんでしょう、きっと。とりあえずパスしておいて大丈夫。答えはちゃんとあるし、知っているハズだから。ところが、突然その質問にいやでも答えなければならない瞬間が訪れたら。自分にとっての答えは、実は何処にもないと知った時の絶望。そこから始る炎の連鎖。人の心の痛みを、雄大の体当たりの行動が救っていきます。

減点対象は話のピークが判り辛いのが難点。中盤で事件は一応の決着と見せるのですが、そこで終わっても良かったんでは、と思うその後の展開。間延びしているというか、また別のお話が始ってしまったようで、物語の統一感に欠けるのです。ラストシーンは前作の『鎮火報Fire’s Out』を読んでいないと戸惑いますって。

『め組の大吾』が、面白いって人には(ちょっとキャラクターが違いますが)いいかもしれません。「馬鹿」な雄大の成長を温かく見守ってやってください。ちなみに彼の生きる目的は「世界で初めて馬鹿を直した男」になることです。

埋み火—Fire’s Out 埋み火—Fire’s Out
日明 恩
講談社
¥ 1,890

Tags: Mystery

2005-09-27(Tue) [長年日記] 編集

_ 伝説巨神イデオン

放映当初は富野由悠季監督の『ガンダム』の次ということで、こちらもそれなりに期待し力も入って観ていました。しかし、そのギスギスした人間関係に辟易した部分も少なからずあったものです。敵の前にまず味方と争っているようなものでしたから。トーンもひたすら暗かったですし、どんどん救いが無く重くなってゆくストーリー。正直、あの頃は毎週面白いと思って観ていたのか疑問です。毎週欠かさず観ていましたけれど。

今、改めて観るとすごいなと思います。これは傑作かと問われれば、激しく頷くしかない。相変わらず見ていて辛くなる部分もありますが、なんだかひたすら感動してしまいました。

人の背負う業をこれでもかとばかりに容赦なく見せられると、なんだか泣けてくる。誰も憎むことは出来ないし、哀れだとも思えないのです。そればかりか、身勝手である事が愛おしいとさえ思う。形は違えどもあれは自分が持っているエゴでもある、からかな。登場人物たちと自分自身の重なる部分がチクリと心に刺さる。生きていくのは哀しいことなのです。

歳をとり生きていくのは理想だけじゃないってことを、身に沁みて感じるようになったからでしょうか。生きていく事は「仕様がない」ことです。夢を見ることが出来る残り時間はどんどんと少なくなり、否が応でも現実を見つめなければならない。生きるために自ら運命を拓こうと、もがき苦しむ彼等は哀しくも美しく映るのです。

この中で一番心に残るのがギジェ・ザラル。戦えば負け、終いには味方から見捨てられ、最後には同胞と戦う事に。イデに翻弄され続けた人。映画では『発動篇』のオープニングでチラッと出るだけであっという間に死んでしまうのが残念。もう少し華を持たせてあげても……。そしてシェリル。地球人側で一番イデに踊らされたのはこの人でしょう。この二人が引かれ合うのは当然か。

シェリルって女性陣の中では一番「かわいい」人だと再認識。身の丈以上に頑張る姿に手を差し伸べたくなる。次がハルルか。いや、最初観たときには絶対こんなことは思ってなかったはずだ。おお、これも大人の味なのか。

その他の登場人物にしても、その存在の分厚さに驚かされます。全員が主役といってもいい程。名のあるキャラクターは誰もが印象深い。その分明確な主人公がいないため、不安定に感じることもあるけれど、それはそれで見事な群像劇。

それいしても。「イデオン」がある意味雰囲気を壊している、と思うのですけれど。人型合体変形メカってのは、大人の事情によるものなのでしょうけど、もっと相応しいデザインだったらと思う。バッフ・クラン側のメカはどれも魅力的なだけに。

iconicon 伝説巨神イデオン 接触篇・発動篇 icon

Tags: Movie

2005-09-28(Wed) [長年日記] 編集

_ MIDWAY

太平洋戦争の転換点となったミッドウェイ海戦を描いた映画。公開当時は結構な話題だった。今調べて初めて知ったのだけれども、アメリカ建国200年記念映画だったそうで。それでもアメリカ万歳的な映画ではなく、日本側も割としっかり描いてあって変な違和感を感じるところはない。もっとも日本人も会話が英語になってしまっているのは、ちょっと頂けない。昔観たのは日本語吹き替え版だったはずなんだけど、今はもうないんでしょうか?

戦闘シーンにも問題が。当時の実写フィルムを所々挟んでいるのは、まぁいいでしょう。全く違う戦場のものだとしてもね。撃墜されて、海面に不時着したら全く違う機種に変わっていた、なんてのはご愛嬌。

しかし、他の映画のシーンを丸々使っているところもあって興ざめ。例えば『トラ・トラ・トラ!』とかね。B-17なんかが登場しちゃって、それはいくら何でも。

それでも、空母同士の戦いってことでは結構楽しめる。見えない相手とのスリリングな戦い。ミッドウェイ海戦の通説をちゃんと描いていて、それを実際に目で見ることが出来るというのは不謹慎な言い方だけれども面白い。日本軍もやられメカ的な扱いじゃないしね。

まぁ、堅苦しい事は言わずに楽しみましょうって映画かな。

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ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
¥ 1,500

Tags: Movie

_ アリスVI

iTunes Music Storeで買ったものその1。

開店記念のご祝儀でとりあえず何か買おうと思うものの、悩みました。オープン当初は「これは!」と思う程欲しい曲がない。心くすぐられるのはいくつもあるんだけど、最初の一曲にするには何となくためらわれたり。どうでもいい事なんだろうけど、最初だからね。思い入れのあるものにしたいという下心が働いて。

結局選んだのがアリス。いやぁ、懐かしい。これ、確か最初に買ったアリスのアルバムのはず。ありふれた言い方だけれども、アリスも青春の一ページ。谷村新司の「セイ!ヤング」も毎週聴いていたよなぁ。

今でもLPはあるけれど、プレイヤーがないという哀しい状態。で、うん十年ぶりに聴くわけなんだけれども。出世作の「冬の稲妻」とそれに続く「涙の誓い」を含む全11曲。そんなことで、彼等も力が入っているんでしょうか、とても聴きごたえあり。どれもいい曲なのだ。少年時代に聞くのとはまた趣が違う。おとっつぁんとなってしまった今「血の絆」とか「何処へ」とか「フィーネ」なんてのはホロッときちゃうねぇ。チンペイさんの唄も色っぽいこと。

そんなわけで、「アリスVI」はかなりのオススメ。

それにしても、iTmsでの購入はほんとに簡単。簡単すぎ。そして危険すぎ。ちゃんとお金を払っているんだってことを認識してないとまずいことになりそう。

アリスVI アリスVI
谷村新司/矢沢透/青木望/篠原信彦/ラスト・ショー/石川鷹彦/大浜和史/アリス
EMIミュージック・ジャパン
¥ 2,000


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