2006-04-24(Mon) [長年日記] 編集
_ メルニボネの皇子/マイクル・ムアコック
かつては世界を支配していたメルニボネの栄華も今は昔。その斜陽帝国最後の皇帝エルリックの物語。ヒロイック・ファンタジー。「メルニボネの皇子」と「真珠の砦」の2編を収録。
ヒロイック・ファンとジーと聞くと単純に筋肉隆々とした主人公を思い浮かべてしまいますが、エルリックは毛色が変わっています。文字通りかれは深紅の瞳に野ざらしのどくろのような白い肌、髪を持つアルビノ=白子なのです。そして、薬草や魔術に頼らなければ生きてゆけない虚弱体質。以前出ていた版では天野喜孝のイラストと相まって、実に耽美的なキャラクターといった印象でした。
容姿が非メルニボネならばその考え方も然り。メルニボネ人というのは残忍で犀利、正義の観念に薄く他の国から見れば悪魔のような存在です。しかし、エルリックは思い悩みます。善と悪、良心、モラル、正義……etc。悩めるヒーローなのです。
かれは自分が統治することによって、メルニボネを、諸国に憎悪される自閉的で残忍で頽廃しきった斜陽帝国から、活気に満ち、この世に平和と正義をもたらすことができ、文明を自国の益に用いるのみならず、他国への教化の実を上げられる国に変えることができればと願っていた。
ネルニボネの皇子
非メルニボネ的なエルリックを快く思わないのが従兄であるイイルクーン。自分こそが皇帝に相応しいと事あるごとに対立します。王座を巡る二人の対決を軸に物語のもう一人の主役とも言うべきストームブリンガーとの邂逅が描かれます。自ら意志を持ち倒した相手の魂をすすりエルリックに力を与える黒き魔剣。クライマックスはその兄弟であるモーンブレードを手にしたイイルクーンとエルリックの対決。
真珠の砦
行き倒れになったエルリックは砂漠の街クォルツァザートの貴族ゴー・ファージ卿に助けられます。それはゴー卿の罠であり、知らず毒を与えられたエルリックは解毒剤とクォルツァザートで知り合った少年アナイの命との交換を条件に<世界の心臓にある真珠>の探すように命じられます。
手掛かりの先にあるのは砂漠の民ポーラディム族の長老の眠れる娘ヴァラディア。エルリックは彼女を救うため、真珠のありかを突き止めるため夢盗人のウーンとともにヴァラディアの夢の世界へと入って行きます。エルリックは彼女を救い真珠を手に入れることができるか。
物語ははじまったばかり、これからに期待
最初にエルリックに興味を持ってからかなりの時間が経ってしまいました。今回新装版が出てようやく読めます。全て読まないと面白さが充分判らないか、ってのが第一巻を読んだ印象でした。
「メルニボネ」は物語のプロローグというか背景説明といった感じですし、「真珠」はストームブリンガーがあまり活躍しないのです。魔法も同じく。遥か昔に「エルリック」に興味を持ったのは、その二つにあるからなおさら物足りなかったです。
物語上はそれほど時間が経っていないのですが、この2編が実際に出版されたのは20年近く経っています。今回新装版で出すにあったて時系列に並び替えたとのこと。微妙にタッチというか雰囲気が違うのも面食らうところでしょうか。何より「エルリック」の世界観を理解していないと、つまりはそれまでの物語を読んでいないと、いきなり「真珠」はちょっと取っ付きにくいように思えるのですが……。
物語は始ったばかり。これから、本当のサーガが始まるということで2巻以降を期待したいですね。
メルニボネの皇子—永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
¥ 987
2006-04-27(Thu) [長年日記] 編集
_ 白菊/藤岡真
銀座で画商を営む相楽蒼司のもうひとつの顔は超能力者。彼はその能力故にテレビのレギュラー番組を持ち、本業のかたわら失せ物や失踪者を探す超能力探偵としても活躍していた。
そんな相楽の元に大学助教授の久村が一枚の白菊の絵を携えて訪れる。その絵は大黒屋光太夫が、ロシアのポントリャーギンという作家の作品を模写したもので、彼の依頼はそのオリジナルを探すこと。それは美術史に残る発見に繋がるかも知れないというのだ。
調査を始めた相楽だったが、何者かに命を狙われるはめに。果たして「白菊」の正体とは?
藤岡作品の面白さというのは物語の展開が読めないということにある、と思ってます。この先どうなって行くのかという期待で読み始めれば止まらないのです。
今回もプロローグがいきなり200年前のロシア。そして大黒屋光太夫が登場してきたりして。
物語の合間に挿入される、記憶喪失の女性の視点で描かれる章が本編とどう繋がっていくのかも興味津々。とにかく読んでる最中はがっちり心を掴んで離さない、飽きさせない。
あちらこちらに伏線をバラまいて、最後にきっちりと収束させる。いや、よくこれだけ仕込んだもんです。バラまき過ぎて散漫に思える、ってことはあるかもしれません。物語を判りづらくさせているってのはあるかも、です。多少のずれはあっても押し込んではめちゃった、ってところもなきにしもあらず。
ただ、それは傷というよりご愛嬌でしょう。藤岡真風味ってとこですね。例えていうなら、ジャンクフードならではの怪しい美味しさ(あ、これ褒め言葉ですからね)。その点が大味に思える人もいるかもしれないですけど。わたしはこの味にハマっちゃいました。
『ゲッベルスの贈り物』や『ギブソン』に比べるとちょっとおとなしめ、でしょうか。渋めというか。その点はちょっと物足りなくもありました。
相楽は超能力者ということになっていますが、実はこれインチキ。彼の物事を言い当てる力は、タネを明かせば興信所を使っての事前の綿密な調査と、かれの推理力によるものなのです。「名探偵」って訳ですね。
超能力者としたことがポイントで、この物語のキーポイントでもあります。最後の真相が語られる場面に、実に意外な形で現れる。「そんなのありかよ」なんて思っちゃいけません。これが藤岡風味ですから。
なにより、先に出てきた何気ないエピソードにこんな意味があったなんて……。「白馬の王子様」の件でジーンときちゃいました。なんだか最後にまったく別の物語を読んだ気分になりましたよ。
あとがきで著者が述べていますが、この物語が続編を予定しているとのことです。余韻のあるラストは、それはそれでいいのですが、このあとがあるのならぜひ読みたい。
余談ですが。テレビ番組で相楽がその能力を発揮するシーン。もちろんそれにもタネも仕掛けもあるんですが、「実際」もそんな風にやってるんだろうなぁ。なんてことを思ってニヤリ。
白菊 (創元推理文庫)
東京創元社
¥ 700
