酔眼漂流記

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2006-05-04(Thu) [長年日記] 編集

_ DZ/小笠原慧

ベトナムでの曰くありげな妊婦の話に始り、アメリカ・ペンシルベニア州で起きた夫婦が殺害され5歳の息子が行方不明の迷宮入り事件、日本での異常な兆候を示す少女のお話。そして、人間離れした頭脳とパワーを持った若き科学者の謎めいた行動。接点のなさそうなエピソードの積み重ねで前半は進んで行きます。当然ながら、これらがどう繋がるのか興味津々。

とは言え、途中で「犯人」は何となく判ってきちゃうんですけどね。もうちょっと謎を引っ張ってくれたらなぁ、と。

場面ごとに中心となる人物がいるわけですが、物語全体として中心となるのは誰か、掴みづらいのですねぇ。だれに感情移入したらいいのか不安定。

横溝正史賞受賞作ですが、ミステリというよりもバイオ・ホラーといった趣でしょうか。ミステリ的な「解決」があるわけじゃないです。例えるなら……、ディーン・R・クーンツ辺りを思い出しましたよ。

染色体や遺伝子といったことがキーワードなんですが、当然それに関する専門用語も素のまま出てきます。この辺りは正直言って何を言っているのかチンプンカンプンだったり。申し訳なく思いながらもその辺りは斜め読み。もう少し噛み砕いて説明してくれればなぁ。なので、最後のオチも判ったようでいて、実は疑問あり。えーと、結局彼女はどうして妊娠できたのでしょう?

実は物語よりも印象に残ったことは染色体の異常による疾患について。今まで気にもとめていなかったことでした。後天的なものであれば、まだ救いがあるような気がしますが、先天的なものだとしたら。運命ということは言いたくないですが、これはどうしようもないことな訳で。子供を作るということにちょっと身構えてしまったり。

物語の中で染色体の異常は進化と紙一重である、というようなことが出てきます。

「ダウン症や他の染色体異常も、人間の進化のための犠牲者だってこと? 自閉症も統合失調症も、失敗した試みに過ぎない訳? そんなこと聞かされたからといって、かれらが少しでも救われると思う?」(p252)

ウーム、この辺りは深く考えさせられるところです。

どうでもいい事ですが。グエンのイメージって、読んでいる間その名前からグエン・サード・ラインフォードに重なってました。

DZ(ディーズィー) (角川文庫) DZ(ディーズィー) (角川文庫)
小笠原 慧
角川書店
¥ 700

Tags: Mystery

2006-05-14(Sun) [長年日記] 編集

_ 秋の花/北村薫

読んでいる最中ゾクリとした。"恐い"物語だと思った。ミステリに、死はつきものかもしれない。人は様々な理由で死んでゆく。しかし、なのである。円紫師匠の語る真相には正直戦慄を覚えた。人は、そんな風に死んではいけないよ。死の痛みがこちらにも伝わってくる。

生まれた瞬間から運命が決まっているなんて、思いたくはない。しかし、真理子の死は利恵と出会った瞬間に決まってしまったのか? でも、そんなふうに考えたら何も出来ないし、残らない。結果がどうであれ、人の出会いが災いだなんて思いたくない。二人とも、きっと出会えてよかったと思っているはずだと信じたい。どういう形であれ、死が待ち受けているのが運命というのなら、今この瞬間を大切に、しっかり生きてゆかねば、と思うのだ。ラストの一言に思わずほろりとさせられた。感動的なラスト。

秋の花 (創元推理文庫) 秋の花 (創元推理文庫)
北村 薫
東京創元社
¥ 651

Tags: Mystery

2006-05-23(Tue) [長年日記] 編集

_ Nobさんの飛行機グラフィティ〈1〉

月刊誌『丸』に連載されている、航空機のイラストと蘊蓄話が詰まった本。デフォルメされた飛行機達は愛嬌があってかわいい。初めて知るような「へぇ」と思う話があって飽きさせない。無駄な知識にニンマリとする一冊なのです。戦闘機が好きならなかなか楽しめるんじゃないでしょうか。

この中でオススメの(?)一機といいますか、今まで知らずにビックリといいますか、ともかく紹介したいのがコンベアYF2Y「シーダート」です。

何が凄いってこいつ、なんと水上ジェット機なのですよ。水上ですよ。水の上を滑走して飛び上がり、帰還は当然着水するってこと。レシプロ機では数々の水上機はあったけれど、ジェット機でもあったなんて。想像するだけで無理してそうって感じが何ともツボにはまる訳です。

もっともレシプロからジェットに移り変わる狭間に咲いた徒花。実用にはいろいろと問題点もあり、結局正式採用はされずじまい。しかし、航空機史上一二を争うキワものでしょう。超音速水上戦闘機。失敗作でもその名は燦然と輝いているぜ。

参考:シーダートーWikipedia

Nobさんの飛行機グラフィティ〈1〉 Nobさんの飛行機グラフィティ〈1〉
下田 信夫
光人社
¥ 1,680

Tags: Book

2006-05-31(Wed) [長年日記] 編集

_ 帝都衛星軌道/島田荘司

あらすじ

奇妙な誘拐事件から物語は始る。紺野貞三、美砂子夫婦の一人息子裕司の身代金はたったの15万円。犯人の要求に従い用意されたトランシーバーを手に美砂子は山手線に乗り込む。

万全の体制を整えた警察が見守る中で、トランシーバーによる犯人との交渉。山手線内という状況と受信距離の短い小型のトランシーバーであることから、犯人を見つけ出すのに難しくはないと踏んだ捜査陣を見事に出し抜く犯人。

しかし、事件は意外な形で幕を閉じる。裕司と現金は戻ってきたが、美砂子は消えた。自分の意志で……。

感想

素直にビックリしました。こんな結末になろうとは……。もっともミステリとして驚いた訳じゃなく、これってある意味トンデモ本ですか?

一番書きたかったのは、最後に語られる東京論といった部分だったのでしょうか。何よりも力が入っていたように感じました。その部分はそれで確かに面白い。でも、あまりにも唐突で全体の中でそこだけ浮いてます。そしてトンデモといった所以でもあります。この部分に結びつけたくて本編を書いたんじゃないかって印象です。そのせいかミステリの部分は、割と突っ込みどころ満載なような。

本当なのかはともかく、東京には私たちの知らないもうひとつの顔があるってことは、物語としてはワクワクすることですね。それは帝都と呼ぶ方が相応しいのかな。

山手線内での美砂子と犯人の会話は、トランシーバーなのでこちらには美砂子の一方的な会話しか伝わらない。で、著者はそれを利用して二人の間でどんなやり取りをしているのか否が応でも興味を引くように盛り上げてくる訳ですよ。最後に本当はこんなことが話されていたんだよ、と種明かしが面白いポイント。

前編後編と分けた間に『ジャングルの虫たち』という一人のホームレスの独白が挿入されてます。この辺りの展開ははいかにも島田荘司って感じなわけです。当然これも何かの伏線かと思って読み進めていくと……。うーむ、微妙。要するにこれも「帝都衛星軌道」ってことな訳ですか。

とは言え、『ジャングルの虫』はそれだけでも十分面白いです。出てくる人物が小悪党ながらもどこか憎めなし、人を騙してでもたくましく生き抜いてやろうとする姿が、却って哀愁を感じさせます。どこか幻影的なラストシーンは、夢と現実の狭間の妙な浮遊感があって本編よりいいかも。モドカシさが想像力をかけ立てるんですよね。なんと言っても島田荘司っぽくないところが、新鮮だったりして。

美砂子という女性の造形や、事件の背景にあることなどいかにも島田荘司な一編ではあります。正直に言えば正統的にビックリするミステリをもっと書いて欲しいなぁ、とも思う訳だったり。帯の「正直言って、自信作です」ってのが本心だとしたら、ちょっと悲しい。

最後に。タイトルもそうですけど、表紙もネタバレしてるんですね、これ。

帝都衛星軌道 帝都衛星軌道
島田 荘司
講談社
¥ 1,890


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