酔眼漂流記


2006-05-31[水] 島田荘司 [長年日記]

[読書][島田荘司]帝都衛星軌道

あらすじ

奇妙な誘拐事件から物語は始る。紺野貞三、美砂子夫婦の一人息子裕司の身代金はたったの15万円。犯人の要求に従い用意されたトランシーバーを手に美砂子は山手線に乗り込む。

万全の体制を整えた警察が見守る中で、トランシーバーによる犯人との交渉。山手線内という状況と受信距離の短い小型のトランシーバーであることから、犯人を見つけ出すのに難しくはないと踏んだ捜査陣を見事に出し抜く犯人。

しかし、事件は意外な形で幕を閉じる。裕司と現金は戻ってきたが、美砂子は消えた。自分の意志で……。

感想

素直にビックリしました。こんな結末になろうとは……。もっともミステリとして驚いた訳じゃなく、これってある意味トンデモ本ですか?

一番書きたかったのは、最後に語られる東京論といった部分だったのでしょうか。何よりも力が入っていたように感じました。その部分はそれで確かに面白い。でも、あまりにも唐突で全体の中でそこだけ浮いてます。そしてトンデモといった所以でもあります。この部分に結びつけたくて本編を書いたんじゃないかって印象です。そのせいかミステリの部分は、割と突っ込みどころ満載なような。

本当なのかはともかく、東京には私たちの知らないもうひとつの顔があるってことは、物語としてはワクワクすることですね。それは帝都と呼ぶ方が相応しいのかな。

山手線内での美砂子と犯人の会話は、トランシーバーなのでこちらには美砂子の一方的な会話しか伝わらない。で、著者はそれを利用して二人の間でどんなやり取りをしているのか否が応でも興味を引くように盛り上げてくる訳ですよ。最後に本当はこんなことが話されていたんだよ、と種明かしが面白いポイント。

前編後編と分けた間に『ジャングルの虫たち』という一人のホームレスの独白が挿入されてます。この辺りの展開ははいかにも島田荘司って感じなわけです。当然これも何かの伏線かと思って読み進めていくと……。うーむ、微妙。要するにこれも「帝都衛星軌道」ってことな訳ですか。

とは言え、『ジャングルの虫』はそれだけでも十分面白いです。出てくる人物が小悪党ながらもどこか憎めなし、人を騙してでもたくましく生き抜いてやろうとする姿が、却って哀愁を感じさせます。どこか幻影的なラストシーンは、夢と現実の狭間の妙な浮遊感があって本編よりいいかも。モドカシさが想像力をかけ立てるんですよね。なんと言っても島田荘司っぽくないところが、新鮮だったりして。

美砂子という女性の造形や、事件の背景にあることなどいかにも島田荘司な一編ではあります。正直に言えば正統的にビックリするミステリをもっと書いて欲しいなぁ、とも思う訳だったり。帯の「正直言って、自信作です」ってのが本心だとしたら、ちょっと悲しい。

最後に。タイトルもそうですけど、表紙もネタバレしてるんですね、これ。

帝都衛星軌道
島田 荘司
講談社
¥ 1,890