酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2004-05-26[水] 津原泰水 [長年日記]

▶︎ [読書]ルピナス探偵団の当惑

最後まで読んでちょっと驚いたのは、これは全くの新作ではないのだ。第一話と二話は十年前に一度出版されている。しかし、驚いたのはそのことではない。そのとき出版されたのは講談社のX文庫だったとは。X文庫ですぜ。我が人生に全く関係のもんね、と思っていたのが、よもやこんな形で遭遇するとは驚きじゃないですか。

もちろん著者がその当時「津原やすみ」名義でX文庫に執筆していたのは知っていたけど、いやはやこんなにも力の入った本格ものを書いていたとはね。そもそもX文庫なんて仕事柄手に取るけど、読もうなんて思いませんよ。意外と侮れないのだなと再認識。

もっとも著者も最後に書かれているけど、やはり当時はその体裁ゆえに本格推理とは認識されなかったようで。今思えば全くもったいないことだけれど、有り難いことに今こうして装い新たに蘇ったのだ。隠れた名作の復活、と言ってしまおう。

もとの素性のせいか、描かれる世界はどうにもくすぐったくなるこそばゆさはある。女子高生三人組ってだけでも少々身構えてしまったりね。しかし、小気味よいテンポで展開される物語は、読み出すとその世界観にすんなりと入ってゆける。

何よりも登場人物たちが微笑ましいし、その彼等のやり取り、掛け合いがとてもセンスよく笑わせてくれるのだ。絶妙なところで悪ふざけとはならず、ユーモアとして受け入れられるのは著者の力量だろうなぁ。

ミステリとしても三編からなる本作は、心憎いほどツボを押さえた逸品。なぜか犯行後に被害者の食べ残したピザをたいらげた犯人の謎。雪の館の二重の密室殺人の謎。死体消失と消えた右手の謎。丁寧に織り込まれた伏線と、キリリと締まったその解決に至るロジックはどれもとても上質で、骨太なミステリなのだ。

ルピナス探偵団の当惑 (ミステリー・リーグ)
津原 泰水
原書房
¥ 1,680