酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2004-09-14[火] 石持浅海 [長年日記]

▶︎ [読書][石持浅海]アイルランドの薔薇

舞台はアイルランド。南北アイルランドを統一しようという武装組織NFCの副議長が、スライゴーの宿屋で何者かに殺害される。政治的な理由から警察に通報できない状況で8人の宿泊客は宿屋に閉じ込められることに。しかも、その中には副議長を暗殺するための殺し屋が紛れ込んでいた。果たして殺害者は何者なのか。宿泊客の一人、日本人科学者のフジの推理が真実を解き明かす。

アイルランドは名前は知っているけれど、なじみの薄いところだ。イギリスと何か関係のある国、と言うのが大雑把な認識。それでも何故かアイルランドと口にするとどこか憧憬に似たものを感じるのはどうしてだろう。ギネスとアイリッシュウィスキーのせいかな。

そもそも「イギリス」は正式名称ではないのである。正確にはThe United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」と言うのだそうで。イングランド王国、スコットランド王国、ウェールズ公国、そして北アイルランドの4つの国がまとまったのがイギリスな訳です。ぶっちゃけて言えばイングランドが、他の国を征服した結果出来た国が現在のイギリス。

現在のアイルランドは南北に分かれているわけなんだけど、ごく簡単に言えば、南側はイギリスから独立し、北側はイギリスの支配下に残ったというわけ。そして、北部は英国にとどまり続けるべきだと主張するグループと南北合わせた独立を願うグループの対立によって、過去にテロだとか血なまぐさい事件が多発したのでした。

肝心の感想。ノベルスで出たときにも話題になった通りとても端整なミステリだ。真ん中直球一本勝負って感じ。こちらとしても気持ちよく空振り三振するしかない。一見謎に見えた真相も、実は単純な事実でしかなかった、というのは好み。こうした清く正しく美しいミステリは読んで清々しいよ。

いわゆる“嵐の山荘”ものなんだけれど、その装置としてアイルランド問題を持ってきたというのが斬新。和平交渉をしている最中なので、NFCの副議長が何者かに殺されたなんて公表できない。下手すれば和平交渉に影響しちゃうからね。そのため誰が何の目的で彼を殺したのかを自分たちで探さなければならないということから生まれたクローズドサークル。単に目新しいさを求めているだけではなく、背景をしっかりと生かしている作者の手腕は素晴らしい。

ただ、伏線の殺し屋である”ブッシュミルズ”の扱いがいまひとつだったのが残念。本筋にうまくからんでいたとはいい難いと思うよ。それに、いかんせん登場人物が少ないから、正体がある程度見極めがついちゃうんだよなぁ。

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)
石持 浅海
光文社
¥ 580