酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2005-01-20[木] 笹本稜平 [長年日記]

▶︎ [読書]グリズリー

グリズリー(笹本 稜平) コードネーム「グリズリー」と呼ばれる男のたった独りの闘い。どこか歪んでしまった世界の秩序。それは善くも悪くもこの世界の「正義」であるはずのアメリカに起因する歪み。彼はこの世界を憂う。世界を変えるべく起こした彼の驚愕の計画は何か。

そして、「グリズリー」引き寄せられるように彼を追う男たちの物語。自分の中に「グリズリー」をみる公安の清宮。過去に「グリズリー」と出逢ったことによって己の運命が変わった元SATの城戸口。自分に対する決着をつけるため、彼等もまた闘いを開始する。

中盤までは仕方の無いことではあるけれど、「グリズリー」の目的も計画も判らないためモヤモヤした気分のまま物語は進む。徐々に明らかになるような展開ではないので、この辺り物語の引っ張り方がやや弱いような気はする。正直少々退屈でもあり。それを乗り越えれば、物語は最後まで読み手の心をとらえてはなさない。待ち受けるクライマックス、厳寒の知床を舞台にした極秘に介入する米軍との三つ巴の死闘。

最初から最後までごりごりと歯ごたえがあるハードな展開。ひしひしと緊張感が伝わる味わい。しっかりと地に着いた骨太な物語を書く人だ。読み始めたら止まらなくなって夜更かししてしまいました。この一冊でお気に入りリスト入決定。読み終えて満足な一冊。

いくつか揚げ足と取らせて頂けるならば、主役であるはずの「グリズリー」にもう少し感情移入できると面白さも倍増のような気もする。特に「グリズリー」が行動を起こした動機の部分の、こちらへの伝わり具合が少し弱いような気がするのです。どうしても、警察側の登場人物の方が判りやすくてね。

しかし、その一方の主役ともいえる追う側の警察関係者も、何人もいて気持ちが分散されてしまっている点はちょっと痛い。最初一方的に主人公だと思っていた城戸口が、知床の戦闘までそれほど出番が無いのがちょっと肩すかしだったり。二人による対決、と言った視点の方が気持ちが伝わるような気がするんですけどね。

あとはアメリカ側。要するにホワイトハウスがいかにもいかにも敵役と言ったステレオタイプに思えてしまうのも、座布団を一枚ぐらい取り上げたくなるところ。

もっとも。それは十二分に面白かった故に出る読み手の我が侭といったところ。男たちの熱い闘いの物語を求めるならば、読んで損は無い一冊。極めて良質の冒険小説。