酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2005-05-28[土] 石持浅海 [長年日記]

▶︎ [読書][石持浅海]扉は閉ざされたまま

石持浅海は、今もっとも期待している作家の一人。これまでは「アイルランドの薔薇」にしても「水の迷宮」にしても、状況的に(物理的ではなく)閉鎖されは状況の中での殺人事件を描いている。

今回は堂々の密室殺人。けれども、そこはひと捻り。普通は、ドアが破られて密室殺人が誕生となるのに、それこそ「扉は閉ざされたまま」の状況で物語は進んでいく。登場人物に取っては密室はおろか殺人事件も起こっていないと言う状況。

久しぶりに開かれた大学の同窓会で、メンバーの一人の兄が経営するペンションに7人の男女が集う。その中で、伏見亮輔は後輩の新山への殺意を胸に秘めていた。物語は倒叙形式で伏見の視点で進行。当日、部屋の浴槽で彼を殺害。事故による溺死に偽装し、部屋を内側からロックする。そして、何食わぬ顔で他のメンバーの元へ。

一向に部屋から出てこない新山を、花粉症に聞くと言う触れ込みで与えた睡眠改善薬のために眠り込んでいると思い込ませる。しかし、参加者のひとり碓氷優佳だけは些細なことから疑問を持ち始める。優佳によって、伏見の計画が少しずつ綻び始めていく緊迫感。伏見の計画は成功するのか!

倒叙物なので犯人に肩入れしたくなるんだけど、彼女の痛いところをついてくる指摘に、ついついこちらも舌打ちしたくなる。攻める優佳と躱す伏見。丁々発止のやり取りではなく著者の言葉にあるように「探偵と犯人が静かな闘いを繰り広げ」てゆく。

何故密室状態を創り出したのか。これが読んでいて引っかかる点で惹き付けられる点。伏見の筋書きとしては入浴中に睡眠改善薬のせいで眠り込み浴槽に沈んで溺死、というところだったはず。それならば、何も密室を創り出す必要なないはず。この辺りは伏見、というか著者は妙に思わせぶり。

犯人が判っている以上これこそがこの物語の最大の謎、といえるかな。その謎が優佳によって明かされる時。それは動機にも絡んでくるんだけれど、ちょっと不気味な理由。歪んだ正義感。正直言えば、そんなことで殺意が芽生えるの……、とは思うけれど。

丹念に真相を紡ぎだしていく、端整なロジックに満ちた好編。ただ、欲を言っちゃえばこじんまりとした印象も。どうもこのところ藤岡真、鳥飼否宇とひねくれたミステリを読んでたせいか、10点満点の着地姿勢は美しいけどなんだか物足りなくも。ずっこけちゃってもいいからとんでもないアクロバティックな大技を、と思うのは欲張り過ぎですかねぇ。

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)
石持 浅海
祥伝社
¥ 880