酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2005-09-20[火] 日明恩 [長年日記]

▶︎ [読書]埋み火

老人世帯で失火により住人が焼死する火災が続く。どのケースもあまりにも「不幸な偶然」が重なっていることから、実は放火自殺なのではという疑問を大山雄大はもつ。気になるうちに、鍵を握ると思われる人物と出会う。全ては放火自殺なのか、それとも……。

消防士の活躍するお話は昔から好きなのでした。勝手にカッコいい憧れの対象に思っていたのです。しかし、本作の主人公大山雄大には戸惑いました。彼は消防士にはなりたくてなったわけではないのです。だから、熱き消防士魂みたいなものは皆無。消防士を地方公務員という安定した職業としか捉えておらず、さっさと危険な現場から離れて、事務職に移りたいと願っています。

この時点で怯みましたが、だからと言っていい加減なヤツと言うわけでもありません。やるべきことはちゃんとやる。もっともそれは火災現場では手抜きなんてしようものなら、それは自分の命の問題だからということではありますが。それでも、彼はいいヤツです。なんだかんだと言って結局事件に頭を突っ込んでいくのですから。物語の主人公としての資格充分にあり。ただ、台詞はいいとして地の文までかなりくだけた(くだけ過ぎ)ノーテンキな口語体ってのは、読んでいて鬱陶しかったですが。

「人は何のために生きているのか?」

明確に答えられる人なんて、そう多くはないのでは。大多数の人にとってその問いは、ありがたいことに、自然とスルーできることなんでしょう、きっと。とりあえずパスしておいて大丈夫。答えはちゃんとあるし、知っているハズだから。ところが、突然その質問にいやでも答えなければならない瞬間が訪れたら。自分にとっての答えは、実は何処にもないと知った時の絶望。そこから始る炎の連鎖。人の心の痛みを、雄大の体当たりの行動が救っていきます。

減点対象は話のピークが判り辛いのが難点。中盤で事件は一応の決着と見せるのですが、そこで終わっても良かったんでは、と思うその後の展開。間延びしているというか、また別のお話が始ってしまったようで、物語の統一感に欠けるのです。ラストシーンは前作の『鎮火報Fire’s Out』を読んでいないと戸惑いますって。

『め組の大吾』が、面白いって人には(ちょっとキャラクターが違いますが)いいかもしれません。「馬鹿」な雄大の成長を温かく見守ってやってください。ちなみに彼の生きる目的は「世界で初めて馬鹿を直した男」になることです。

埋み火
日明 恩
講談社
¥ 1,890