酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2006-01-13[金] 石持浅海 [長年日記]

▶︎ [読書][石持浅海]セリヌンティウスの舟

ダイビング中の遭難。大時化の海を漂う六人の男女。死を意識する状況のなか、彼等は互いに支え合い生還することで何より勝る信頼を得た。深く結ばれた絆。 二年後。ダイビングの後の打ち上げの夜、メンバーのひとり米村美月は青酸カリを呷って自殺した。五人に宛てた遺書を残して。残された彼等は彼女の死の意味を理解するために集まる。事件現場の些細な点から、美月の自殺に疑問をもつ彼等。果たして彼女の死の真相は……!?

「セリヌンティウス」というのは太宰治の『走れメロス』の登場人物。メロスの身代わりとなった友人ですね。メロスは有名ですけど、セリヌンティウスの知名度はいかほどでしょうか。私もすっかり忘れていました。その名にちなんで『走れメロス』がキーワードとも言えます。

セリヌンティウスは自分の命を賭けてメロスを信じました。生きるか死ぬかという中で得た彼等の友情はその二人に共通するものがあると言うわけです。お互いの絆の深さ。友情。信頼の絶対性。それがモチーフです。

登場人物たちの心情にどれだけ共感できるかで、読み終えた後の感想も違ってきそうです。もちろん私にも信頼する友達はいます。しかし、彼等のそれは妄信的とも思える程。ちょっとついていけない感じです。一歩下がったところでみてしまうので、「解った」と言う気分を持ちにくいのです。私だったらきっとあんなこはとしない、って思えるから。大切だと思う人なら、なおのこと生きていて欲しいと思うのが普通だと思えて。

そもそも自殺するなんてことは、他のメンバーに対する裏切りじゃないの?

それはともかく。「事件」でもないことを最後まで飽きさせず読ませる手腕は流石。青酸カリによる服毒自殺にもかかわらず容器のキャップが閉められていた。そんな些細なことをきっかけに、死の真相に想い巡らせてゆく展開は充分面白い。「謎解き」の美しさも申し分ない。気持ちの部分での判りづらさはありますけれど、ミステリとしては捨てがたい味わいのある一作であるのは間違いないでしょう。

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)
石持 浅海
光文社
¥ 800