酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2006-07-02[日] 有栖川有栖 [長年日記]

▶︎ [読書][有栖川有栖]乱鴉の島

休暇のために三重県のとある島に出掛けた火村英生と有栖川有栖。島まで送り届ける漁師の勘違いから、二人は別の島へ連れて来られてしまう。そこは多数の鴉が乱舞する島。二人が出会う人々。世俗との接触を断って隠遁する作家と彼を慕う者たち。世間の注目を集める若き辣腕起業家。そして、悲劇の幕は上がる。

ミステリに孤島とくれば、それは王道と言っていい組み合わせ。有栖川作品でも『孤島パズル』は自分の中では一番と言っていい存在。火村シリーズとして初の孤島ものの長編。こうなると読む前から期待に胸はずむ。

しかしながら、著者もあとがきで述べているように「孤島もの」といっても、曰くのある伝説や奇怪な連続殺人といった派手な展開にはならない。いつもの火村シリーズと同様に「普通に」人が殺されるだけ。華々しさはなし。けれど、読み始めればすっかり夢中にさせられる。

まず、全編を覆う大きな謎としてこの島に集まった人たちの真の目的は何かってことに引きつけけられる。この物語の縦糸でしょう。何かを隠している彼等の素振りに却って興味が沸く。それは人を愛する故の正しいとは言いがたい、でも彼等にとってはかけがえのない夢。とことん人を愛してしまうってのは、やはりある意味罪なことなのかもしれない。

もっとも、それが実現したところで空しいだけ思うのは私は無粋ってことかな。夢がない。それが叶うだけで今の自分が満足できるのは相当ロマンチストでなきゃ駄目だなぁ。

そして、殺人事件の謎。これが何と言うか、判ってしまえば味も素っ気もない実に通俗的な事件なのだ。普通の三面記事的な事件といえばいいか。でも真相が判るまで、実に謎めいてみせてくれる。だからこそ不可解に思えた事が、なんでもないところへ着地する、そのギャップが却って痛快なのだ。

崖から突き落とした死体をわざわざ移動したってことが謎のひとつになっている。この理由が、小説的な突飛さではなく実際にやりかねないと思うようなことなのが高ポイント。人間誰しも悪い事だと思いつつやってしまうってことはあるよなぁ、と。

奇想天外なトリックや結末ももちろんミステリの醍醐味。だけれど、普通に起こりえるようなことを、ワクワクする謎に仕立ててくれるのが火村シリーズの面白さだと思うんですが、いかがでしょう。

乱鴉の島
有栖川 有栖
新潮社
¥ 1,785