酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2006-09-27[水] 石持浅海 [長年日記]

▶︎ [読書][石持浅海]顔のない敵

対人地雷をモティーフにした6編のミステリ短編集。プラス処女短編作付き。

それにしても対人地雷。「悪魔の兵器」とも呼ばれて、現在人類が抱える悩みのタネのひとつと言ってもいいものかもしれない。兵器である以上地雷もミサイルも爆弾も人を殺傷するという点では何ら変わらない。

ならばなぜ「悪魔の兵器」と呼ばれるのか。

基本的に対人地雷は、人を殺すための兵器ではない。大怪我を負わすことを目的としているのだ。そして、負傷した兵士を手当てするために別の兵士を割かせて兵力をダウンさせる。また、負傷者の姿を見ることによって戦闘可能な兵士の戦意を喪失することも狙っているのだ。戦争そのものは非人道的な所業だけれど、それにしても実に陰湿な兵器ではないか。

おまけに、戦争が終わっても地雷は残されたまま。そして現在は一般の人に多数の犠牲者を出している。地雷を除去しない限り、永久にこの災いからは逃れられない。

日本人にとっての関心度はそれほどじゃないのか。自分自身、自衛隊も地雷を装備していたということを認識してなかった。現在日本は、対人地雷禁止条約を批准してる。けれど、米中ロといった国は批准していないので、有効な条約とは言い難い現実がある。

そんな題材で6編の短編を、しかもどれも趣向が違う、書き上げるってのは恐れ入りましたと言えるかもしれない。この地味さ加減が石持浅海かもしれないとも思うけどね。

少なくとも自分には、願う資格がある。久山はそう考えている。自分は、荒井のトラバサミと真剣に向き合い、たとえ被害がごく微小であっても解決しようと奔走したのだ。それは、地雷問題解決に最も必要な姿勢であるはずだから。

『トラバサミ』p.158

説教臭く「さぁみなさん対人地雷について考えましょう」なんて事はなく、単にミステリとして読んでも短編であるということもあって、切れ味の鋭いものばかり。この人のミステリは実に美しいよなぁ。

それでも、自分の知らなかったことに想いを巡らすチャンスを与えてくれた本でもあるわけだ。何も出来なくとも、知るということは大切、かな?

処女短編作の「暗い箱の中で」

97年の光文社文庫「本格推理⑪」に収録されたもの。6年振りに再読して、これは石持浅海のデビュー作だったのかとびっくり。今でもはっきり覚えていて、それほど最初に読んだ時のインパクトがあったってことだ。

地震で止まったエレベータ内。真っ暗な中で閉じ込められた男女5人。超極小な密室殺人。犯人が限定されるエレベーターの中での犯行の意図は? 最後に行き着く真相の見事さにはホレボレ。いやはや、これは傑作だと思いますぜ。これだけでも読む価値あり。

罪を憎んで人を憎まず、って言う姿勢は石持節なんだろうねぇ。事件の解決が必ずしも後味がいいかって言うと、かなり微妙なところだ。でもねぇ、その辺のところも病み付きになる魅力ではあったりするのだ。

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)
石持 浅海
光文社
¥ 900