酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2008-11-18[火] ROVING MARS [長年日記]

▶︎ [読書]ローバー、火星を駆ける/スティーブ・スクワイヤーズ

ローバー、火星を駆ける―僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢(スティーヴ スクワイヤーズ/Steve Squyres/桃井 緑美子)

NASAの火星計画であるマーズ・エクスプロレーション・ローバー。その要である探査機スピリットとオポチュニティをめぐる物語。著者はその研究者代表である。

華やかに見えるNASAの宇宙開発だが、裏に回ればもっと地味な現状がある。今まで知らなかったが、NASAが自力で宇宙開発を行っているわけではないということ。言ってみれば胴元みたいなもんである。今度火星に向けてロケット飛ばすから参加したい人集まれ!ってな感じで、搭載する観測機器などは公募で選ばれるのだ。

ライバルは多い。著者も何度も応募しては落選という憂き目に遭う。やっと選ばれたと喜ぶのもつかの間、計画が大幅に変更されそうになるわ、白紙になりそうになるわ。どうにかこうにかゴーサインが出ても、今度は予算とスケジュールが重くのしかかってくる。次々と襲う開発中のトラブル。その度にお金が消え、時間も消えていく。そして打ち上げの期日は変更できない*1。もう火星を駆けるどころの話じゃない。この辺は読んでいてスリリング。このてんやわんやが本書の半分を占めるのだ。

そして打ち上げ。なんと著者にとってはここまでの道のりが16年。感慨深いものがあっただろうけど、読んでるこっちもその一端を知っているのでその思いが共感できる。

P246

もう二度と打ちあげが阻まれることはないと思うと、心からほっとした。しかし、それと同時に不安があり、何ともいえない寂しさもあった。スピリットは永遠に行ってしまった。(中略)本物のスピリットの姿はもう二度と見られない。それがこんなにも悲しいとは。つらい別れだった。

こっちまで目頭が熱くなる。

この先はスピリットとオポチュニティ二人の姉妹の大冒険のもがたり。手に汗握る火星への降下・着陸、そしてトラブルを乗り越え火星探査活動を行う彼女たち。まさに事実は小説よりも奇なり、を地で行くような展開。もちろん単なる機械でしかないけれど、どうしても擬人化して見てしまう。遥かに遠い未知の世界で黙々と作業する姿を健気と思わずにはいられない。

そして、驚くことに今も彼女たちは火星で活動を続けている*2。当初の予定では約3ヶ月と見積もっていたのが4年である。開発者たちの苦労の結晶だろうなぁ。

いつの日か人類が火星に下り立ち、再び彼女たちに会える日が来ることに思いを馳せて、夜空に火星を探してみよう。

ローバー、火星を駆ける―僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢
スティーヴ スクワイヤーズ/Steve Squyres/桃井 緑美子
早川書房
¥ 2,625

*1 火星への打ち上げの好条件は2年に1度しかない

*2 残念ながら現在、スピリットは太陽電池に積もった埃のせいで十分な発電ができないため危険な状態にあるらしい。しかし、過去にオポチュニティが、おそらく竜巻によって埃が吹き飛ばされて回復したなんてことがあるから、今回も奇跡を願うばかりだ