酔眼漂流記

酒を片手に酔眼化する日々の記録


2010-08-03[火] 梓崎優 [長年日記]

▶︎ [読書]叫びと祈り

ネット界隈での評判は上々で、ようやく入手。期待して読む。五つの短編が収められている。斉木という青年が異国の地で体験する謎を解く、というのが基本パターン。

まず最初の「砂漠を走る船の道」でやられてしまった。これは「ミステリーズ!新人賞」受賞作。確かに納得の出来。砂漠をゆくキャラバンで起きた連続殺人。砂漠という特殊な状況下で、なぜ殺人を犯さなければならないのか。しかも、登場人物はわずか=容疑者も少ない。解き明かされる真相に脱帽。物語に溶け込む見事な動機。砂漠であるが故の殺人。しかも、最後にもう一捻り加えて…註1。素晴らしい。

一番推したいのは「叫び」だ。舞台は南米アマゾンのジャングルの奥地。そこに住む少数民族の取材に訪れた斉木だが、その部族は謎の伝染病によって、住人の全てが死に絶えようとしていた。そして、そこで起こる連続殺人。これまた不可解な状況の中での殺人である。いずれ死ぬと分かっている者を殺す意味はあるのか。これはなんといっても結末が凄い。この絶望的で苦汁に満ちた結末を見よ。これって推理小説のとてつもない否定とも取れるけれど、それだけにものすごいカタルシスを感じる。真相がわかって、犯人も動機もわかって、でもそれがなんになるの?ってところに身震いした。人と人は分かり合うことは出来ないのか。

いい意味で憂鬱にさせてくれるのだが、それだけに最後の「祈り」が気分をホッとさせてくれる。これだけ読んだらちっとも面白く無いだろうけど、それまで読んできて最後にこれだからね。

印象的な一部分を引用。

どんなに理不尽でも現実は残酷で、どんなに祈っても思いは届かない。常識はたやすく砕け散る。永遠に分かり合えないで殺し合う人間もいるし、分かり合った人間を殺すやつもいる。それが現実だ。

現実は確かに残酷だ。それでもーお前は祈るべきなんだ。

オレにとってはこの部分がこの物語の核心だと思う。やっぱり人と人は通じ合えるんだよね。

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)
梓崎 優
東京創元社
¥ 1,680

註1 もっとも、これは蛇足と感じる部分もなきにしもあらず。けど、読み終えてみるとまた違った意味をみってくるね