2010-09-20[月] [長年日記]
▶︎ [読書]ワイオミング生まれの宇宙飛行士/中村融編
宇宙開発というテーマで編まれた日本独自のアンソロジー。
主任設計者/アンディ・ダンカン
ソビエト連邦の実在のロケット開発指導者のセルゲイ・コロリョフを主人公とした改変歴史物。在り得たかもしれないソ連の宇宙開発史。とはいえ、当時のソ連のことなんか全く知らないわけで、どこまでが史実かわからない以上「ノンフィクション」と変わらない。そんなわけで、SFというよりもひとりの男の生きざまを静かに、それでいて熱く描いた作品と読めた。宇宙開発というある意味大それて馬鹿げた夢に、情熱を傾け邁進する男と、彼を信じて共に進む男たち。簡単にいう大馬鹿たちの物語でもある。それだけに気持ちがイイ。人間前を向いて胸張って歩かなくちゃいけないな。
サターン時代/ウィリアム・バートン
アメリカの改変歴史物。スペースシャトルはなく、そのままサターンロケットが使われ続けたら、というお話。こちらは微妙に違う歴史にニヤリと出来る。それにしても、実際にスペースシャトルの退役が決まり、アポロと同じ一世代前のソユーズがまだ現役をつづける現在を思うと感慨深い。あと、ラストは『2001年宇宙の旅』のオマージュにもなってるのかな?
電送連続体/アーサー・C・クラーク&スティーヴィン・バクスター
今度はイギリスが舞台。前二つと違ってこちらは有り得そうもない改変歴史のお話。というのも、時代背景のベースがクラークの短編から採られている。そこでは『スタートレック』などでおなじみの転送技術が確立されているのだ。これは宇宙開発よりは、技術の革新が人類に与えるものは何かという物語でもあるか。今の時代に乗ることができるか。昔はよかった、とつい思っちゃうけどねぇ、ってお話でもある。
上記3つは、露米英のお国柄・雰囲気が、それとなく出ているようで面白い。
月をぼくのポケットに/ジェイムズ・ラヴグローブ
ジュブナイル。子どもの頃、誰しも似たようなことはあったよね。夢は持ち続けなきゃいけないよってことである。
月その六
平行世界を描いた作品。舞台となる世界のひとつが全く宇宙開発が進んでないというのがキモ。そんな世界に紛れ込んでしまった宇宙飛行士の悲哀。また、登場する世界のパワーバランスがそれぞれ違うのが面白い。これまた英米露がそれぞれ宇宙開発の主導を握っているようでね。
献身/エリック・チョイ
火星に降り立った宇宙飛行士たちに襲いかかる危機。彼らを救うのは…。「はやぶさ」の健気さにウルウルきちまった身には、こういう話は弱い。機械を過剰に擬人化して、そこだけ取り上げるのもどうかと思うが、そこはそれ。火星というと「彼」もそうだけど、「スピリット」と「オポチュニティ」を思い出す。いつの日か、迎えに行ってあげられる日が来るといいなぁ。
ワイオミング生まれの宇宙飛行士/アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション
途中で薄々気づいたが、こういうラストは苦手なのよねぇ、嫌いという意味じゃなく。ベタといえばベタだが、グッときちまった。宇宙開発もそうだろうけど、人は失敗、何かを失うことがないと一つ先へ進めないんだろうか。
余談。SFって、どうも真っ先に思いつくのが「スペースファンタジー」だったりするけど、「サイエンスフィクション」だと改めて認識。