酔眼漂流記

夜毎酔眼化しつつカメラ片手に未だ人生を漂流する人の記録。

鬼束ちひろライブ「TIGERLILY」に行ってきた

ライブに行くこと自体久しぶりだが、鬼束ちひろのライブに行くのも初めて。彼女にとっても2年ぶりの単独公園だとか。場所は、コレド室町内にある日本橋三井ホール

鬼束歴はまだ浅くって、彼女に興味を持ったのは、少し前に大胆なイメージチェンジが話題になった頃。それまでは、「トリック」の主題歌の人という認識しかなかった。初めて見た彼女の姿がド派手なメークの姿。で、以前の写真などを見てみると、確かに「どうしてこうなった!?」的変貌。ネット上では賛否両論。そんなことで、かえって興味が湧いて彼女の曲を聴いてみようと思った。

実は、それまで持っていた彼女のイメージって、勝手におどろおどろしく思っていた。「トリック」のエンディングのイメージと彼女の声と、何より「鬼」って名前から勝手に。ところが「初めて」見た彼女はそんなイメージと真逆。漠然と30代ぐらいに思っていたから、「月光」の頃が二十歳だと知って驚く。「眩暈」や「流星群」、「私とワルツを」などなど聞いていくうちにすっかり彼女の世界の虜に。

傍目から見ると、所属レコード会社や事務所が変わったり活動休止があったりと、彼女の活動は順風満帆には見えず、いろいろご苦労がお有りなようで。そんな中での、驚愕のイメージチェンジは、色々と憶測を呼んだんだろう。それは試行錯誤なのか、迷走なのか。しかし、最近になって以前の雰囲気に戻ってきた、と言っていいのか。どういう心境なのかなんてことは、あれこれ詮索しても、それは彼女自身のことであって、意味のないことだろう。ただ、どうであれ彼女が無理をしていないことを願うばかり。

このライブがあると知ったのが今年の1月。抽選の先行予約があるというので、ダメもとで申し込んでみた。そうしたら、あっさりと入手。しかも結構前のほう。この時点で、もしかして不人気なのかと変な勘ぐり。しかし、会場に着いてみれば満席状態。客層は千差万別。でも、女性の方が多いのかな。ワンドリンク付きと言うことで、ビールを一杯を頂き、開演までの時間を待つ。

時間になり会場内へ。席は前から5列目。しかし、一番端なのでステージ上はちょっと見づらい位置。席に着くと妙な緊張感。ライブ自体が久しぶりってことがありますけどあるけど、ちゃんと始まるんだろうかって若干の不安も。予定時間の19時になっても始まらない。5分過ぎても始まらない。否が応でも高まる緊張感。過去のライブの感想などをネットでいろいろ拝見していると、いろいろ不安になることが書いてあったり。だからなおさら。

やがて10分近くになる頃、ピアノ演奏の富樫春生さん登場。ソロでの弾き語りの中、白いドレスの鬼束ちひろ登場。で、のっけから「月光」を。イントロの瞬間から鳥肌が立ち、彼女の歌声に圧倒される。MCなしで、ピアノ一本で黙々と歌っていく彼女。曲の合間に拍手が鳴る以外は静まり返る会場。「お祭り」としてのライブじゃない。誤解を恐れずに言えば、これは「楽しむ」ためのものじゃない。なんだか対決している気分になる。歌う彼女と聴くこちら側との真剣勝負だ。

正直、もう少し肩の力を抜いてもいいのでは、と思わせる熱唱。いや、熱唱なんて言葉ではぬるい。全身全霊で歌うその姿は、狂気すら感じる。聴きながら思ったのは、果たして彼女自身は楽しめているのかってことだった。なんかね、これな何かの儀式で、彼女はシャーマンであり生け贄であり。圧倒的な感動とともに、いたたまれない気分も少々。

最後に富樫さんと並んで「礼!」と深々とお辞儀をする。顔を上げた彼女の表情には、疲労困憊の色。ステージを去る足取りもふらつく感じ。だがしかし。途中で、客席に向けてVサインを送る顔はとても素敵な笑顔だった。こっちまで嬉しくなる笑顔。その瞬間「ああ、彼女も満足だったんだなぁ」と勝手に納得した。また、この笑顔を見るためにライブに行きたい、なんて年甲斐もなくこっぱずかしいことを思いながら会場を後にした。